読書録 地方生活の日々と読書

趣味が読書と言えるようになりたい。

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読んだ本

『くるまの娘』(宇佐見りん著)【読書感想】

以前から気になっていた本を手に取った。宇佐見りん著『くるまの娘』。表紙の絵は、メリーゴーランドと顔のない女子高生。題名と合わさってどこか不穏な雰囲気をまとう一冊だ。 宇佐見りんさんの本を読むのは、芥川賞受賞作の『推し、燃ゆ』に続き2作目。『…

『人は死ねない 超長寿時代に向けた20の視点』(奥信也著)【読書感想】

趣味として古今東西様々な本を斜め読みしてきて、ひとつ学んだことを挙げるとすれば「人は自分の死に時を選べない」ということである。私だって、貴方だって、明日死ぬかもしれないし、120歳まで生きるかもしれない。 それでも科学の発展は、我々は思いがけ…

『嘘と正典』(小川哲著)【読書感想】

小川哲さんの短編集『嘘と正典』を読んだ。 著者の名前は以前から知っており、いずれ読みたいなと思っていたが、ついつい先延ばしにしていた。今年のはじめ、著者が長編『地図と拳』で第168回の直木賞を受賞されたと聞いて、ようやく購入したのが本書である…

『セロトニン』(ウエルベック著 関口涼子訳)【読書感想】

セロトニンとは神経伝達物質であり、不足するとうつ病などを惹起させるという。幸福物質、などと呼ばれているのを耳にすることも多い。題名通り、本書『セロトニン』(ウエルベック著)は幸福についての物語である。 40代の白人男性である主人公は、幸福とは…

スティーヴンスン『宝島』【読書感想】

ミスター・トリローニは、スクーナーの出航準備を監督できるよう、波止場の旅亭に泊まっていた。そこまでは歩いたが、うれしいことに道は岸壁ぞいで、そこには大きさも艤装も国籍もとりどりの船がひしめいていた。水夫たちが、ある船では鼻歌まじりに作業を…

挫折本を読み返す。ヴィクトール・ユゴー著『レ・ミゼラブル』(西永良成訳)

「ところが、アンジョルラスには女がいない。彼は恋をしていないのに、勇猛果敢になれる。氷みたいに冷たいのに、火みたいに壮烈になれるなんて、これこそ天下の奇観というもんだぜ」 アンジョルラスは聴いているようには見えなかったが、もしだれかがそばに…

2020年読んで思い出に残っている本

読書メーターによると、2018年は54冊、2019年は64冊、2020年は127冊の本を読んでいた。読書の楽しみは量ではないとはいえ、我ながらよく読んだなと思う。年100冊越えは学生の時以来だ。たくさん読めただけではなく、面白かった本にたくさん出会えた一年だっ…

祝・映画化!『ナイルに死す』【読書感想】

もうすぐ映画化ということでアガサ・クリスティーの『ナイルに死す』を再読。久しぶりのクリスティーです。ナイル川クルーズで起こる殺人事件をたまたま居合わせた探偵ポアロが捜査し推理し解決するというミステリー。プロットだけを見れば典型的な推理小説…

森博嗣Wシリーズ5作目『私たちは生きているのか?』【読書感想】

私たちは生きているのか? この問いに、特に悩まずにイエスと答えられる私は幸せである。思考と肉体はイコールであり、肉体の死はすなわち人格の死である。肉体の死の定義は確かに微妙な点はあるが、しかし、それでも分かりやすい世界に住んでいる。 さて。…

北森鴻の異色長編ミステリ『冥府神の産声』【読書感想】

北森鴻さんの長編ミステリ『冥府神の産声』を読みました。 初読は小学六年生か中学一年生のときだった。「冥府神」と書いて「アヌビス」と読むのがカッコいいという、中二病的感性から手に取った一冊。初めて読んだときは、難しい話だなと思った。挫折したと…

北森鴻のデビュー作を読む。『狂乱廿四孝』【読書感想】

何度かこのブログにも書いている気がするが、北森鴻というミステリ作家の物語が好きである。初めて北森鴻さんの物語を読んだのは小学六年生のときなので、彼の物語とはかれこれ二十年弱の付き合いである(ちなみに初読は、ミステリアンソロジーに収録されて…

『アンナ・カレーニナ』(トルストイ著 望月哲男訳)【読書感想】

『アンナ・カレーニナ』、読みました。私はヴロンスキーとアンナのカップルが好きで、二人を応援しながら読んでいました。だからこそ後半になるにつれ、ページを捲るのが辛くなっていきました。恋心だけでは「生活」はままならない。文豪トルストイの大長編…

Wシリーズに繋がる物語。『女王の百年密室』(森博嗣著)【読書感想】

15年ぶりぐらいの再読。森博嗣さんの『女王の百年密室』。我が家には何故か単行本と文庫本の両方がある(『女王の百年睡魔』も二冊ある。『赤目姫の潮解』は単行本だけ。文庫版解説はブログ「基本読書」の方が執筆されているので、文庫でも欲しい気がする…

SFアンソロジー『日本SFの臨界点』[恋愛篇・怪奇篇]伴名練編を読んだ。【読書感想】

この国に隠された、異形の想像力。 ”世界で最もSFを愛する作家”が 編んだ渾身のアンソロジー 心惹かれるキャッチコピーと共に、この夏発売されたのが、ハヤカワ文庫より出ている伴名練編『日本SFの臨界点[恋愛篇]死んだ恋人からの手紙』と『[怪奇篇]ちま…

『アリスマ王の愛した魔物』(小川一水著)【読書感想】

小川一水さんによるSF短編集『アリスマ王が愛した魔物』を読んだ。著者の小川一水の名前は長編SFシリーズ「天冥の標」により知った。シリーズが完結した当時、よくインターネットで名前が挙がっているのを見たものだった。このシリーズが面白いと評判なので…

戦争×女学院×ミステリ『倒立する塔の殺人』(皆川博子著)【読書感想】

先の4連休は本を読んで過ごしていた。今年の自主課題図書であるトルストイの『アンナ・カレーニナ』と4連休前に買ったばかりのSFアンソロジー『日本SFの臨界点』(恋愛篇・怪奇篇)を併読しつつ、合間の気分転換にミステリやら新書やら(『ペスト大流行:…

『推し、燃ゆ』(宇佐見りん著)【読書感想】

珍しく文芸誌を買った。河出書房新社の『文藝 2020年秋号』である。河出書房新書のTwitterをフォローしており、そこで今号の特集「覚醒するシスターフッド」を知り興味を持った。「シスターフッド」という言葉は初めて知ったが、惹かれるものがあり買ってし…

『感情教育』(中山可穂著)【読書感想】

『感情教育』、といってもフローベールの著書ではない。中山可穂さんの長編小説で、野間文芸新人賞候補作にあがっていた物語である。 女性同士の恋愛をテーマにした小説という前情報を知り手に取った。少し前に読んだ『キャロル』(パトリシア・ハイスミス著…

非現実系掌編集『非常出口の音楽』(古川日出男著)【読書感想】

『非常出口の音楽』という掌編集を読んだ。著者は古川日出男さん。古川日出男さんの掌編集といえば『gift』である。あとがきにも書いてあるが、本書は『gift Ⅱ』ともいえるような一冊である。 古川日出男さんの掌編、ショートショートは独特だ。私の中でショ…

『刺青』谷崎潤一郎著【読書感想】

先週末に読了したアメリカ発の恋愛小説『キャロル』(パトリシア・ハイスミス著)の反動で、昔の日本の恋愛小説を読みたくなった。そこで出てきた作家の名前が谷崎潤一郎。だいぶ前に『卍』の読書感想をブログにあげたことがある。調べてみると、多くの作品が…

至高の百合恋愛小説『キャロル』パトリシア・ハイスミス【読書感想】

パトリシア・ハイスミスの『キャロル』を読了した。これがすごかった。直球の恋愛小説だった。 本書は1951年、今から70年近くも前にアメリカにて出版された女性同士の恋愛をテーマにした長編小説である。2015年にトッド・ヘインズ監督により映画化もされてい…

『少女奇譚 あたしたちは無敵』(朝倉かすみ著)【読書感想】

パトリシア・ハイスミスの『キャロル』を読んでいる。 ご存じ女性同士の恋愛を描いた切ない物語なのだが、結構な序盤から悲劇の予感が満ち満ちていて辛くなってしまい(だって、主人公である19歳のテレーズのキャロルに対する純度100%の恋愛感情が、擦れた…

『浮遊霊ブラジル』津村記久子著【読書感想】

世界には物語があふれている。読みたい本は尽きることがない。過去の名作はいくらでもあるし、毎月のようにベストセラーは生まれ続ける。それらをすべて読むことは不可能である。私は本が好きだが、別に速読家ではないし、すべての時間を読書に費やせるわけ…

『プラハの墓地』ウンベルト・エーコ【読書感想】

ウンベルト・エーコ著『プラハの墓地』を読みました。 ウンベルト・エーコといえば『薔薇の名前』で有名なイタリア人作家。著者紹介では「記号論学者」という紹介がされることが多いが、私は彼の学術的な功績を知らない。ボローニャ大学の名誉教授であったそ…

『死刑にいたる病』櫛木理宇著【読書感想】

SFでも買うかと寄った本屋で見つけた一冊。早川書房の文庫棚で、SF小説たちに挟まれて売られていた。早川文庫の例に漏れず、普通の文庫本よりもほんの少しだけ、背が高い。 櫛木理宇さんの小説を読むのはこの『死刑にいたる病』が初めてである。表紙の裏の著…

『2001年宇宙の旅(決定版)』アーサー・C・クラーク著 伊藤典夫訳

有名SFを読んでおこう、と昨年末に早川書房の電子書籍セールで買ったアーサー・C・クラーク著『2001年宇宙の旅』を読了した。世間的には同題名のキューブリック監督による映画の方が有名なのだろう。「2001年宇宙の旅」で検索すると、映画のことばかりが…

『インターネット文化人類学』(セブ山著)【読書感想】

『インターネット文化人類学』という本を読んだ。はてなブックマークにも時々名前のあがる、「オモコロ」などのネットメディアで活躍するライター、セブ山さんによる、インターネットに生息する人々の生態を解説する一冊である。 この本の裏表紙の著者紹介に…

『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』J.D.ヴァンス

アメリカという国は近くて遠い国だ。太平洋を挟んで隣国であり、我が国の社会経済に多大な影響力を持っている。テレビをつければ毎日のように大統領の名前が登場するし、ホワイトハウスやニューヨーク証券取引所の映像もよく目にする。それだけ身近な国であ…

『ブラッド・メリディアン あるいは西部の夕陽の赤』(コーマック・マッカーシー著)【読書感想】

4月。年度が代わり、陽気は春めいてきた。しかし世界では引き続き新型コロナウイルスが猛威を奮い続けている。日本でも感染者は三桁の日が続いているが、一方で非常事態宣言はまだ出ていない。私は今のところ普段通りの生活を続けている。平日は仕事へ行き、…

『マーダーボット・ダイアリー』(マーサ・ウェルズ著)【読書感想】

3連休。読むのを楽しみに積んであったSF小説『マーダーボット・ダイアリー』(マーサ・ウェルズ著 中原尚哉訳)をついに読んだ。一人称が「弊機」の殺人ロボットが主人公の小説だと聞いて興味を持ち、2ヶ月ほど前に買ったものだ。いざという時に読もうと、積…