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読書録 本読みの貪欲

近畿地方の某田舎町で一人暮らし中。

『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ

あけましておめでとうございます。
本年度の目標は、途中まで読んで挫折した海外文学(『魔の山』とか『城』とか)を最後まで読了することです。
どうぞ長い目でお付き合いください。

さて、去年読んだ本の中での一押し、カズオ・イシグロ『わたしをは離さないで』を紹介したい。
まず目を引くのはこの変わったタイトルである。
レンタルビデオ店にて同名のDVDが並んでいることは知っていた。
しかし並んだDVDを手に取ることはなく、また同著者の本を読むこともなく今まで生きてきた。

本との出会いは偶然に。

大学の生協に、カタカナで書かれた日本風の著者の名前を見つけたのは偶然である。
他の文庫より少し背の高い文庫シリーズ。(早川epi文庫)
その本は同じ作者の手による3、4冊の本と共に並べられていた。
こんな片田舎の理系大学性が手に取るような著者ではないだろう、と思った。
実際、売れ残った結果、生協の棚の一部を占め続け、そして私という偏狭者に見つけられるに至ったのだろう(というのは言いすぎか)

読んでみた。

主人公の女はとある施設に育った。その施設はとある使命をもった子供たちを養育するためのものであるが、その使命がどのようなものであるか、読者である私たちには明かされない。また幼い頃の主人公たちにも明かされない。しかし幼心に彼女は、外の人間とは違う自分を感じている。
物語は大人になった彼女が、育った施設、そしてその後のコテージ生活を回想することを通して進んでいく。
そして明かされる、彼女たちが生まれた理由。
けれども、謎解きは終わらない。最後の最後に明かされる伏線たち。そして、残酷な結末。
異常で、特殊な状況に育った彼女たちの運命。

謎が解ける過程は、これぞ読書の面白さ、といえるカルタシスが得られる。

しかしこの小説の魅力はSFチックな設定にあるのではない。
むしろ、まったく逆である。
異常で、特殊な状況に育ったはずの彼女たちは、どこまでも人間臭い。
特に、私が惹かれたのは、女同士の友情。
そのリアルさ。
こんな女の子いたよね、と思わず過去の記憶を掘り起こしてしまいそうになる。
素直に掘り起こす気になれないのは、ここに書かれた友情が、よくある綺麗ごとにまとめあげられた理想論でも「女の怖さ」を面白おかしく書きたてたようなどろどろ劇でもなく、実生活の自利と愛着と嫉妬の物語だからである。
友情に振り回されつつも、友情から離れられない主人公。腐れ縁は続く。
弱くも強い人間がそこにはいる。
だから、主人公たちの境遇の悲しさがくっきりと浮かびあがる。

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)