読書録 地方生活の日々と読書

趣味が読書と言えるようになりたい。

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週末読書 『葬送の庭』タナ・フレンチ

土曜日。
15時過ぎ。車で図書館に向かう。
その時間にしては珍しいことに、駐車場が満杯で、駐車場前には空車待ちの列ができていた。
まあすぐに空くだろう、待つこともあるまい。
スーパーで少し時間をつぶすことにする。

スーパー内を一周し、揚一番やらシュークリームやらを買いこみ、車に乗る。
キーを回し、エンジンをかける。
そこでふと、自分はたいして図書館に行きたいわけではないことに気付いた。
今欲しいのは、本じゃない。
自分にしては珍しいことで戸惑った。
では何をしたいのかと言われても、たいしてやりたいことはない。
我が田舎町には遊び場もないし、面白いイベントもお店もない。
行くべきところは一カ所しかない。
大学の研究室に車を向けた。

そして自分が読書に飽きていることに思い至った。

実を言うと、前夜は10時ごろから2時過ぎまでひたすら本を読んでいた。
当日も8時半ごろ起きて朝食をとってから、読了するまでその本を読み続けていた。
上下2冊組の文庫本。
大人になり集中力が落ちた私の眼と頭は、もう活字はいいやと言っている。

コーヒーと本を片手に過ごす優雅な土曜日の計画はこうして崩れ去った。

で、読んでいた本。

通算10時間程、私を夢中にさせた本。
アイルランドミステリ作家タナ・フレンチ『葬送の庭』
あまりミステリっぽくないミステリである。
それでもミステリなので、以下、ネタばれ注意。

ミステリの面白さを何に求めるか。
ミステリにはいろいろな要素があり、その分様々な楽しみ方ができる。
自身の読書歴を振り返ってみる。
私がミステリに求めるもの。

1 大円団的な謎解きシーンと全てが繋がったときに得られるカルタシス

2 人間と人間関係の複雑さ

ちなみに今、私の頭の中には金田一君がいます。
1はまあ言葉の通り。
2は、少し補足がいるだろう。
ミステリに出てくる人間は、非現実的な状況に置かれている。
人を殺すか殺されるかという極限的な状況である。
そのような状況に追い込まれたとき、人間はどうするのか。
あるいは、人間の中の何が、そのような状況を生み出すのか。
犯人の心情吐露が、昔から好きだった。
それに、謎解きと同時に人間関係の複雑さにも風通しが良くなることが多い。
なんだかんだで読んだ後味が良い作品が多いこともミステリの特徴だと思う。

葬送の庭

本作をミステリっぽくないといったのは、1の要素が少ないからだ。
文庫本2冊に渡る大作だが、被害者はたったの2人だ。
本作の読みどころは謎自体にあるのではなく、登場人物たちの関係性だ。
そして残念ながら、人間関係の滓は最後まで読んでも払拭されない。
むしろ作品時間を通し、徐々に悪い方向へと進んでいく。
本作に爽快感を求めてはいけない。

探偵役兼主人公が、22年前に行方不明となった初恋の少女の遺体を見つけるところから物語はスタートする。
物語が進むにつれ、彼が育った環境の苛酷さ――貧しさや暴力を振るう父親――が明らかになる。
そんな環境の中で一緒に育ってきたきょうだいの一人が死体となって発見される。
二人を殺したのは誰か。
警察の潜入捜査官でもある主人公はなんとしても真実を見つけようとする。

物語の背景には下層階級で育ち、自身と恋人のために家族を捨て、下層階級を脱した主人公の半生がある。
貧しさが貧しさを生む連鎖の中で、それでも自分の人生を諦めない彼や彼のきょうだい達。
いつしか形成された歪な形の家族愛。
戻れる家があるのは幸せだ。
そのことに主人公が気付いたのは、下巻の最終章である。
そのときにはもう、彼は大切なものを自らの手によって壊してしまっていた。
やりきれない思いを私に残したまま物語は終わってしまう。

それからもう一点。
第二の殺人の犯人が、個人的に納得いかない。
なんとなく違う気がする。
根拠はない。
でも、だって、なんだか、あんまりだ。
主人公が、人の話を最後まで聞かないワガママなので、犯人の主張が聞けない点が欲求不満。
それ、あんたの思いこみじゃないのと思ってしまった。
証拠とかないし。
どこか読み間違えたかな……

後味の良いミステリ読みたい。
やっぱり本屋にでも行くかな、と思った。

読書録

『葬送の庭』
著者:タナ・フレンチ
訳者:安藤由紀子
出版社:集英社文庫
出版年:2013年

葬送の庭 上 (集英社文庫)