読書録 本読みの貪欲

近畿地方の某田舎町で一人暮らし中。

日本に生まれたんだから幸せに思え?『世界「比較貧困学」入門 日本はほんとうに恵まれているのか』 石井光太

ネット上でもリアルでも、経済的な愚痴をこぼす人に対して、「でも、アフリカなんかに比べたら、日本に生まれただけで幸せなんだから」という人がいる。
言われた方は、確かに日本は経済大国でもあるので、「それはそうだけど」と答えるしかない。
言いたいことはそういうことじゃあないんだけどな、と思いながら。

比べてみると分かること。

石井光太『世界「比較貧困学」入門 日本はほんとうに恵まれているのか』という本は、そのもやもやとした気持ちを整理してくれる。
タイトルにあるように「日本は本当に恵まれているのか」

日本は世界有数の貧困国だとされる。OECD(経済協力開発機構)によれば、先進国のなかで世界第三位の貧困大国だそうだ。  (p3)

本書は、冒頭で「日本は貧困である」という事実を突き付ける。
もちろん日本における貧困は、発展途上国の貧困とは性質が違う。本書では「貧困」について、「相対貧困」と「絶対貧困」の二種類の概念を用いる。

「相対貧困」=等価可処分所得(一世帯の可処分所得を世帯人数で割った数値)が全人口の中央値の半分未満の世帯員
「絶対貧困」=一日一・二五ドル以下での暮しの人

日本における貧困とは「相対的貧困」を指す。日本では単身所得が約150万円以下である人々のことらしい。約2000万人、6人に1人の割合だ。
また世界で絶対貧困下にある人は12億人で、こちらも6人に1人の割合である。

皮肉なことに、世界における絶対貧困の割合と日本における相対貧困の割合は、六人に一人ということで一致する。すなわち、世界の貧困問題と日本の貧困問題とは、人口比のうえでは同程度といえるのである。  (p5)

本書のねらいは、相対貧困である日本と絶対貧困の国々を比較することで、それぞれの貧困の特徴を明らかにすることである。所々に著者が取材した人々の状況が具体例として載っており、イメージしやすい。
明らかにする対象は以下、目次の通り。

はじめに
第1章 住居 コミュニティー化するスラム、孤立化する生活保護世帯
第2章 路上生活 家族と暮らす路上生活者、切り離されるホームレス
第3章 教育 話し合う術をもたない社会、貧しさを自覚させられる社会
第4章 労働 危険だが希望のある生活、保障はあるが希望のない生活
第5章 結婚 子どもによって救われるか、破滅するか
第6章 生きるための必要悪か、刑務所で人間らしく暮らすか
第7章 階層化された食物、アルコールへの依存
第8章 病と死 コミュニティーによる弔い、行政による埋葬
おわりに

日本の貧困が浮き彫りになる

この本は面白い。日本の抱える諸問題が相対化され、浮き彫りになっていくからだ。
物事には良い面と悪い面がある、ということが良く分かる。「絶対貧困」よりは「相対貧困」の方がマシ、とは必ずしも言うことができない。ここでいう「マシ」とは「人間らしい生活」ということになるだろうが、何を持って「人間らしい生活」とするのかは、個人や社会によっても異なるだろう。
本書から分かることは、「絶対貧困」「相対貧困」それぞれに特徴があり、それぞれにあった対策をとらなければいけないということである。
「日本に生まれたんだから幸せに思うべき」という主張は、「相対貧困」を認めない理由にはならない。
「相対貧困」があるということを認めたうえで、どうしていくべきか考えるべきだろう。

日本の貧困の特徴は第1章のサブタイトルにもある通り「孤立化」である。
絶対貧困の国々では、金持ちが住む区域(タウン)と普通の住人が住む区域(ダウンタウン)と貧しい人々が住む区域(スラム)が明確に別れているそうだ。タウンの警察はダウンタウンには見回りに来ないし、ダウンタウンのストリートチルドレンたちはタウンには立ち入らない。そんななかで貧しい人々は、貧しい人同士が助け合いつつ暮すコミュニティーを形成する。
一方日本では、金持ちも貧乏人も混住している。地価の高い地域はあるが、高層マンション群の間に古いアパートがひっそりと佇んでいたりする。戦後の日本にあったスラム的コミュニティーは、国が豊かになり、町が整備されるにつれて消滅していった。コミュニティーを失った貧しい人々は、同じ境遇の人たちと出会うこともなく、孤立する。現在の日本の低所得者には、コミュニティーを一から作ることが難しい高齢者や障害者が多く、また、恥の意識も強いことも原因としてあげられる。そしてこの「孤立化」が様々な問題を引き起こしている。
「おわりに」にある著者の言葉が味わい深い。

日本の貧困による悲劇は、良くも悪くも人間どうしのつながりが切れ、制度に依存しているところから発生している。国全体が貧困から脱することができたはずなのに、皮肉にもそれがさらなる格差を生み、切り捨てられてしまった人間どうしのつながりが低所得者に苦痛を及ぼしているのだ。   (p264)

日本人は、隣人と助け合うことをやめて、立派な福祉制度を作りあげた。
治安も良くなった。犯罪は地下に潜り、見えなくなった。
良い悪いの問題ではない。
でも、いざという時に助け合えるつながりを持つことは決してマイナスではない。
今の社会で、自分は一生勝ち組にいられると自信を持っている人はどれだけいるだろう。
情けは人のためならず。
人に助けてもらいたければ、まずは自分が助けること。
利己的か? 利己的で結構。
将来勝ち組にはなれそうにないので、福祉制度とは別の命綱をつないでおくことを、頭の片隅に置いておきたい。

読書録

『世界「比較貧困学」入門 日本はほんとうに恵まれているのか』
著者:石井光太
出版社:PHP研究所PHP新書
出版年:2014年

後ろのページを見ると、出版日が5月2日になってます。未来。これらの日付の仕組みが分からん。

世界「比較貧困学」入門 (PHP新書)