読書録 地方生活の日々と読書

趣味が読書と言えるようになりたい。

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GWだし、本屋へ行って、意識高い系について考えて、ダーレン・アロノフスキー監督『ブラック・スワン』を観た。

今週のお題ゴールデンウィーク2014」

GWである。黄金週間である。ということで、車で大きな本屋へ行ってきた。

文庫本を眺めていると、恐ろしいやりとりが聞こえてきた。
若い男の人と店員さんの会話。

男の人:ブルーバックスってどこですか?
店員さん:ブルーバックスってなんですか?

びっくりした。
もちろん店員さんは本好きで、本に詳しくなければならないという法はない。
でもブルーバックスってそれなりに有名だと思うのだけど……

男の人:えっ? あっ、あの……このくらいの本のシリーズで、1000冊ぐらい出てる……
店員さん:はあ。

男の人、必死に伝えようとするが、伝わらず。1000冊も出てないと思うが、ブルーバックスを知ってる者からするとよく分かる。
確かにブルーバックスは購買層が別れるシリーズだとは思うが……
世の中、当たり前ということはないんだなということを再認識した経験でした。

ちなみにこの本屋では、探していたミラン・クンデラ『不滅』を購入。
5月5日で、子ども向けに「子どもの日」イベントをしていたり、先日亡くなったガルシア=マルケスの本がピックアップされてたりと、本屋自体はとても雰囲気が良かったです。

話は変わって。意識高い系。

意識高い、という言葉について最近考えている。
意識が高い=知識が豊富というわけではないだろう。ブルーバックスを知らない書店員の意識の高低は、上記のエピソードだけでは分からない。
意識の高低は、指向性や目的へ向かうエネルギー含有量のことのように思う。静的ではなく動的な状態を前提としている。
それから一般に意識の高低という言葉は、相対的な意識の高低を表しているようだ。
普通の人よりも意識が高い人が意識高い系であり、意識高い系と比較して「私は意識低いから」なんて思ったりする。

ところで、絶対的な意識の高低というのはあるのだろうか。

と言うのも、意識が高い人というのはどこを目指すのか、また意識の高さを極限まで高めたらどうなるのか、ということがふと気になったからである。
個人的には、絶対的に意識を高めていくと、絶対的に意識の低い状態と同一のところに辿りつくのではないか、と思う。
どちらも「生きるか、死ぬか」という点に収束してしまうのではないか。
いや、よく分からないけど。

映画『ブラック・スワン』を観ました。

ある意味、意識高い系の集まりを描いた映画である。

主人公二ナは、バレエ「白鳥の湖」に抜擢されるよう真面目に努力を重ねてきた。
努力の甲斐があり、正確なダンスで、主役に選ばれる。
けれども演出家には「もっと自分を解き放て」という要求をされる。演出家や母親の期待に答えられるよう必死に踊るが、男を誘惑しなければならない「ブラック・スワン」の演技が出来ない。
男遊びも薬も知っており、なおかつ、のびのびと踊ることができる同僚リリーへの嫉妬や「役に殺されてしまう」程のストレスから、二ーナは自傷を繰り返してしまう。

いやー面白かった。
痛痛しい表現も多いが、その分二ーナの苦しさが伝わってくる。
バレエをまったく知らない私でも、その大変さや美しさに観いっていた。
オチもよい。ミステリで言うミスリーディングが効いている。
大げさなアクションシーンが一切ないので、ドキドキしっぱなしであった。
友人に自信を持って勧められる一作である。
観たことがない方は是非一度ご覧ください。

意識が高ければよいというものではない。

と書いたが、ニナは俗に言う意識高い系とは少し違うか。完璧主義と言った方が良いかもしれない。
ニナは完璧な演技を目指し、正確に踊ろうとする。
しかし正確さ=完璧ではない。
完璧なバレエとは何か。言葉で表わすことが出来たら、バレエはいらないのだろう。
ニナは、理性ではとらえきれない完璧さというものを求め続ける。

本作は完璧主義の悲劇、優等生の悲劇である。
上へ上へと目指し猛進することで、必ずしも上に行ける訳ではない。
ある段階へと、死に物狂いで上りつめた者がいる。一方で、その段階を楽々と乗り越え、さらに先へと進んでいく者もいる。
必死になって手に入れたものを喜べない者がおり、今手のうちにある物を喜び幸せを感じる者がいる。

ニナは幸せになれない女である。
彼女が痛々しいのは、人生を楽しむこともできず、白鳥として踊り続けなければならないからだ。
規制ばかりの中で育った鳥は、いざ空を飛べと言われても、羽ばたくことができない。
もしニナが白鳥の湖を楽しむことができたら。自らを殺さずとも思うがままに羽ばたくことができたら。
この悲劇の起こらなかったかもしれない。

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ちなみにこの映画、分類的にはサイコスリラーらしいです。