読書録 本読みの貪欲

近畿地方の某田舎町で一人暮らし中。

『ひとりで死んでも孤独じゃない 「自立死」先進国アメリカ』 矢部武

人は歳をとる。
私もあなたもいつかは老人となる日がやってくる。

もちろん老人になる前に亡くなる可能性もあるが、祖父母が存命であることや医療技術の進歩等を考え合わせると、あと50年ぐらいは軽く生きてしまう気がしなくもない。50年か……

さて、50年後、私は自立した老人になれるだろうか。

いつまでも自立した人間。

アメリカの老人事情について書かれた新書を読んだ。

一時期、「孤独死」という言葉が新聞の紙面を賑わせた。
大学生同士の雑談でも、孤独死するかも、といった話が出てきたりする。
この孤独死、アメリカではほとんどないらしい。その秘訣はなにか、という内容の本である。
目次は以下。

プロローグ
第一章 一人っで生きることを前提にした社会
第二章 独居死、必ずしも「孤独死」ならず
第三章 不幸な結婚生活による「同居の寂しさ」
第四章 100歳を過ぎても働き続けたい
第五章 独居者の孤立を防ぐ地域支援体制
第六章 コーハウジングという住み方
第七章 「おひとりさま」の不安を取り除くために

読んで、日本との違いに驚いた。
日本とアメリカとの違いは、歳をとった自分の捉え方と制度にある。

アメリカ人は歳をとってからも「自立」を大切にする。

アメリカでは、歳をとっても自分は自分、社会的な一人間である。
歳をとったら「弱者」になってしまう日本とはそこが違うように思う。

自立を大切にするアメリカでは、独居老人も多い。
この本でも、子どもたちとの同居よりもひとり暮らしを選ぶ人たちがたくさん紹介されている。
なかには、寝たきりであるにも関わらず、ひとり暮らしをしている人もいる。

彼らが孤独死予備軍かといえばそうではない。

社会は高齢者の一人暮らしを当然と思い尊重し、社会的なサービスも充実している。

高齢者向けの低価格マンションや、低所得者向けの宿泊施設。
宅食サービスやソーシャルワーカー、ホームレス向けの食事サービス。

アメリカ=弱者に冷たい国、という印象があったがそうでもない……のか?
著者曰く、生活保護受給もアメリカより日本は難しいらしい。
アメリカでも受給者の収入などのチェックがあるが、それはあくまで受給者のみ、である。

一人で生きることを前提にした米国社会で問われるのは個人の受給資格だけだが、日本では家族の所得などが事実上審査されたりする。家族に頼めないから役所に行っている場合でも、なかなか助けてくれない。  (p59)

なるほどなー(注:本書の出版年は2012年。今はどうなのだろう?)

「自立」意識の違い。

良い悪い、ではない。自立することが絶対的に良いのか、そんなこと分からない。
ただ、日本人とアメリカ人の自立意識は大きく違うということを実感した。
90歳の夫と暮す、視覚障害者の83歳の女性は言う。

「親として子供にはずっと”自分のことは自分でするように自立しなさい”と育ててきて、”それ以上のこと(親の面倒をみる)をする”ように求めるのは気が進まない」

翻って私たちはどうだろう。
自立、自立、というけれども、本心から自立を望む人間がどれだけいるのだろうか。
なんだかんだ言って、誰かに依存したいと思っている人が多いのではないか。
ほぼ寝たきりの状態になっても自立、一人暮らしを貫きたいと思っている人がどれだけいるだろう。

私はアメリカの老人たちのことを知ってかなり驚いた。
意識の底には、いつか両親の介護をする日がくるのだろうと思っていた。
父親は「俺のことなんて、気にしなくてよい」と言うが、一人暮らし経験がほとんどなく料理もできない父親が、70になった時に一人暮らしできるとは思えない。

また独居老人に対する視線も、日米では大きな違いがあると感じた。
例えば、近所の独居老人に対して「八十にもなって一人暮らしなんて。子どもも稀にしか顔を出さないし、可哀想」そう思うことが、自立への道を閉ざしているのだ。
二章では、夫婦で住んでいるのに、すれ違いにより寂しさを感じている人たちのことが紹介されている。

当たり前だが、孤独と見捨てられることは違うのだ。

もちろん、日本では支援制度が整っていないから自立したくともできないのだ、との意見もあろう。
日本もアメリカに習い老人の自立を支えるべきだ、と言うのは簡単だが、現実には壁も多い。

しかしそれを踏まえた上で、どのような老後を送りたいかを考えるのは、悪くはないだろう。
50年後に考えればよい?
確かにその頃には、社会も大きく変わっているだろう。良くも悪くも。
でもこのようなことは、老人になってしまってから考えても遅いと思う。
もっとも、考えていたところで、実際にどうなるのかは分からないけど。

ただ50年後、日本がもっと多様な生き方を肯定できる社会になっていればいいな、と思う。
社会を変えるにはまず個人から、か。

読書録

『ひとりで死んでも孤独じゃない 「自立死」先進国アメリカ』
著者:矢部武
出版社:新潮社(新潮新書
出版年:2012年
ひとりで死んでも孤独じゃない: 「自立死」先進国アメリカ (新潮新書)