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読書録 本読みの貪欲

近畿地方の某田舎町で一人暮らし中。

今更ながら『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の旅』を読んだ。

日本の物語 読んだ本

天の邪鬼なため話題のベストセラーは読みたくない。
現代日本を代表する作家によって書かれ、あっという間に50万部を売り上げた『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の旅』
つい先日には、英訳版がニューヨーク・タイムズのランキングで1位であったとニュースになっていた。
それでも国内ではほとぼりが冷め、図書館の本棚に並ぶようになったので(発売後しばらくは予約しなければ読めず、本棚には並んでいなかった)、借りて読んだ。やっぱり気になっていたのです。

まるでミステリ。以下、ネタばれ有り。

村上春樹が好きか?

この問いには「別に好きでも嫌いでもない」と応えよう。
それでもなんだかんだと有名どころは読んでいるし、読めば面白いと思う。
1Q84 BOOK3』は挫折したが、ねじまき鳥クロニクル』『東京奇譚集』『スプートニクの恋人は二度読んだ。結構読んでるじゃん、自分。
特に『スプートニクの恋人』が好き。長すぎないのがよい。『海辺のカフカ』も読んだら意外と好きだった。(高校生のころ少年カフカというムックを見つけてしまい、絶対『海辺のカフカ』は読まないと誓ったのだが(天の邪鬼だから)、大学生になって誓いを破って読んだら面白かった)

けれども私は、俗にいうハルキニスト達のように、深く読みこんでいるわけではない。扱いは他の作家の物語と同等だ。余計な詮索や憶測を巡らせたりしない。暗喩を読み解こうとか、作家が裏に込めた意図を探ろうなんて思わない。国語の授業じゃあるまいし。そのような作業は、村上春樹ともなれば、文学部の学識豊かな方々が喜んでしてくれるだろう。

でも、いろいろと裏を探りたくなるのも分かる。特にこの『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の旅』は。
まるでミステリを読んでいるかのようだった。村上春樹っぽくないようにも感じた。固有名詞が多いからか。

主人公の前には謎がある。
二十歳のある日、高校のころからの友達4人に、いきなり友情を「切られた」。理由はまったく知らされなかった。三十六歳となった今、彼はその謎を解き明かすようにという恋人の助言に従い、過去の友人たちを訪ねる。
そして友人の一人、可憐な音楽少女だったシロが、二十歳のときに彼=多崎つくるによってレイプされたと言い張っていたことを知る。その彼にはまったく身に覚えのない主張により、彼は友人たちから一方的に絶縁されていたのだ。しかも彼を絶望に追いやったシロは三十歳のときに何者かによって殺されていた。

普通のミステリであれば、物語はシロは本当は誰にレイプされたのか、何故多崎つくるによりレイプされたと主張したのか、そして彼女を殺したのは誰だったのか、を解き明かす方向に進むはずだ。
それがミステリのお約束だからだ。
だが、忘れてはいけない、村上春樹はミステリ作家ではないし、本書が並ぶのはミステリコーナーではない。
だから、謎は解き明かされない。

解き明かされないならしょうがない。自分で解いてみようと思う人も多いだろう。謎を謎のまま受容することに現代人は馴れていない。馴れたい人は、もっと幻想小説とかトマス・ピンチョンを読みましょう。
私は、基本めんどくさがりなので、別に謎を解こうとは思わなかった。
シロはそこらへんの男にレイプされ、多崎つくるの知らない彼女の友人なり恋人なりに殺された。そして内心思う所があって、つくるにレイプされ処女を奪われ妊娠させられたと信じ込んだ。犯人探しをするよりも、シンプルでいいと思うのは私だけだろうか。
そもそも文学は理屈で「分かる」ものではないと思う。

気になったところとか。

個人的には、犯人は誰か、ということよりも気になったことがある。
つくるは、アオが高校時代にクロのことが好きだった、ということを聞かされている。
にも関わらず、つくるがフィンランドにいるクロに会いにいったさい、そのことをおくびにも出さない。
私はこの態度をものすごく不思議なもののように思った。不誠実な態度のように思える。意図的に隠しているのだろうか。
つくるは5人グループのなかに、恋愛感情を持ちこまないよう努力していた。特に、不思議な魅力を持つシロとは二人きりにならないようにしていた。他のメンバーも同様に、男と女としては好きにならないようにしているのだろうと考えていた。けれども違った。アオはクロのことが好きだったし、クロはつくるのことが好きだった。
つくるが見ていた五人グループと、他のメンバーが見ていた五人グループは、決して同じではなかった。
物語は、つくるの目線でしか語られない。
物語を読む私に、つくるは誠実な男に見える。
でも、それが本当のつくるの姿なのだろうか。他の人から見た物語は、もしかしたら全く違う様相をしているのかもしれない。シロの言い張ったつくるの裏の顔。本当につくるが犯人だったら面白いのに。

他にも、細かく読んでいくと、あれと思うところはあるだろう。
また村上春樹の他の作品との共通点もあったりする。六本指とか。地下鉄サリン事件への言及とか。
読みこみがいのある物語である。なによりも短いので、読み返すのにも都合がいい。
くどくないので、さらりと読み流すにももってこいの物語であると思う。

読書録

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の旅』
著者:村上春樹
出版社:文藝春秋
出版年:2013年

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年