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読書録 本読みの貪欲

近畿地方の某田舎町で一人暮らし中。

『ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか』NHKスペシャル取材班

 年末年始だからか、なにかと忙しい。1日16時間くらいは大学にいる気がする(徹夜や泊りこみしてないだけいいのだろうけど)。12月に入ってがっつりと読書量が減ってしまった。昨日など桜庭一樹の読書エッセイシリーズ『お好みの本入荷しました』(大好きなシリーズ。再々読めかな?)を一つと、雑誌『ユリイカ 11月号』(森博嗣特集号! 迷った末に買ってしまった)に収録されていた森博嗣へののインタビューのところしか読んでいない。私にしては異常なことだ。
 勉強の必要上、技術書や論文などは読んでいるけれども、自分の中では読書に含んでいない。趣味の読書には楽しみがなければ。

 机と向き合いっぱなしの日々の合間合間に読んだ本を紹介したい。NHKスペシャル取材班『ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか』。これが、面白い。400ページ越えのがっしりした単行本だが、さくさくと読み進めることができる。どのくらい面白いのかといえば、高校生に戻って、この本で取り上げられている文化人類学や考古学、サルの研究ができる大学に入り直したいと思ってしまうくらい。自分のやってる研究よりずっと面白そうに見える。だめじゃん。

 面白いと思える理由は、この本が「人間とはなにか?」という誰もが気になる(私だけか?)テーマの元に、分野横断的にいろいろな学問をつまみ食いしながら、探求を深めていくからだろう。しかも感情論・精神論や哲学的になりそうなところをぐっと抑え、あくまで科学的に探っていこうとするところが興味深い。
 私は「なぜ生きないといけないのか」というクダラナイ問いに捕らわれていたりするのだが、その答えを探るのだって、科学的な見方をする必要はあると常々思っている。「なぜ生きないといけないのか」という問いも見方を変えれば、「私が「なぜ生きないといけないのか」と思うのはなんでなのか」という問いに変わる。不思議ではないか。どうしてこんな生存に不利そうな思考が生じるのか。そしてそれを探るためには、認知など人体に関する研究や進化や生態など人間を群として見る研究、はたまた社会制度の遍歴などの研究が必要だろう。こう書き出してみると残念なくらい私は無知である。さまざまな学問分野と、自分自身の体験や思想、物の見方を統合してはじめて、「なぜ生きないといけないのか」という問いに「私が」納得できる答えは見つけることができるのだろうと考えている。まあ、今の私には結構切実な問いなのだけど、歳をとったらどうでもよくなるのだろうとは思う。

 前置きが長くなった。とにかく「なぜヒトは人間になれたのか」というタイトルの問いだけではなく、「人間とはなにか」ひいては「人生とはなにか」という問いにも興味のある方には是非読んで頂きたい一冊である。科学的と書いたが、特に難しいことは書いていない。軽い気持ちで読んでほしい。少なくとも安っぽい自己啓発本よりはずっと発見があると思う。目次は以下。人類の進化を時系列に追っている。

はじめに 心――この不可思議なもの
第1章 協力する人・アフリカからの旅立ち ~分かち合う心の進化~
第2章 投げる人・グレートジャーニーの果てに ~飛び道具というパンドラの箱
第3章 耕す人・農耕革命 ~未来を願う心~
第4章 交換する人・そしてお金が生まれた ~都市が生んだ欲望のゆくえ~
終章 なぜいまヒューマンなのか

日進月歩の学問の世界

 この本は平成24年に出版されている。つまり載っている知識は数年前のものであり、今は古くなっているものもあるだろう。
 この本には今まで知らなかった知識がたくさん詰まっていた。学校で習った知識がすでに過去のものであることや、常識だ一般的な通念だと思っていたことが否定されていたりすることを知った。

 人類は常に気候変動に悩まされてきたこと。
 ネアンダール人は言葉を操っていたが、飛び道具を使えなかった可能性が高いこと。そしてそれがホモ・サピエンスに淘汰された原因であるかもしれないこと。
 「お祭り説」という、農耕や畜産は特別な集まりの時にご馳走を提供しようとして始まったという仮説があること。

 挙げだすときりがない。改めて学問ってすごいなと思う。日進月歩。
 時折、撮影現場の小話も挟まれているが、きっと21世紀だから撮れた映像も多いのだろうと思う。野生種の小麦が、生った実を散らすところを撮った話など、本当に大変だっただろうなと思った。
 このNHKスペシャル自体は、未見だが機会があれば是非見てみたい。放送自体は2012年だったのかな?

 話はずれるが、少し前指導教官のD論を見たが、すべて手書きであってものすごく驚いた。別の方からも、学生が一人一台パソコンを持って解析したり論文書いたりするようになったのはここ十数年ぐらいだよと言われた。パワーポイントの代わりに、投影するためのフィルムの原稿?を印刷屋さん?に持って行ったという話も聞いた。いまいち想像できない。あたり前の感覚って怖いなと思った。  

 今あたり前と思っていることが、10年前、100年前、1000年前、1万年前、10万年前では当たり前ではなかったのだ。でも、今を生きる私たちも、10万年前に生きた私たちの祖先も、同じ種であり、同じように生きていた。食べて、寝て、動いて、子どもを育て、親を看取ってきたのだ。
 J-POP的な安易な「奇跡」は嫌いだけれども、確かに今私が存在しているのは、奇跡に違いないのだろう。

読書録

『ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか』
NHKスペシャル取材班
出版社:角川書店
出版年:2012年

ヒューマン  なぜヒトは人間になれたのか

単行本で読んだけど、文庫化もしているらしい。