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読書録 本読みの貪欲

近畿地方の某田舎町で一人暮らし中。

『依存症ビジネス 「廃人」製造社会の真実』デイミアン・トンプソン

 年末年始に読んでいた本。『依存症ビジネス 「廃人」製造社会の真実』。お正月に読む本じゃない気がするが、気にしない。読んだところ、現代社会の一面、しかもなかなか日の当らない一面を見事に切りとった本であった。
 それからサブタイトルがよい。『「廃人」製造社会の真実』。気になるじゃないか。ただし、読んだところ、「真実」を探しだすと言うよりも、様々な事例をジャーナスティックに並べてみた、といった感じの本である。「廃人」的な事例も出てくるが、本の主張としては、現代人は誰でも依存症的になる可能性がある、というもの。専門的なことを期待しては読まない方がよいと思う。あと「ビジネス」と書名にあるが、経済的なことにはほとんど触れていないので注意。

 著者デイミアン・トリプソンは『デイリー・テレグラフ』紙(イギリスの日刊紙)のライターだそう。こんなこともあるのか、と軽い気持ちで読むのが吉。普段は知ることができないイギリスやアメリカの一面が分かって面白い。

第1章 社会は私たちを「廃人」に従っている
第2章 依存症は本当に”病気なのか”
第3章 なぜ自分を破滅に導く観衆をやめられないのか?
第4章 お買い物とヘロインとお酒の共通点とは?
第5章 スイーツはもはやコカインだ!
第6章 どこに行っても安く、大量に酒が手に入る世界で。
第7章 処方箋薬がこれほどいい加減とは!
第8章 ゲームという新時代のギャンブル
第9章 「無料ポルノ革命」の衝撃
第10章 我らを誘惑から救い給え

ネタばれ有り。『依存症ビジネス 「廃人」製造社会の真実』


 原題は『How addiction is invading our lives and taking over your world』
 依存症と聞くと、薬物やアルコールが思い浮かぶ。しかし、私たちがハマるのはそれだけではない。現代は人々を虜にする刺激が溢れている。甘い菓子、インターネット、買い物……
 裏表紙には「どこもかしこも「ついつい手が出る」ものだらけ!」。まさしく。現代社会、消費社会、テクノロジー社会は、依存症と相性が良い。物やサービスを買わせたい企業は、人々の依存心を煽るべく日夜研究を重ねる。私も時間があればついついブログをチェックしてしまう。
 
 著者は依存症になるかならないかというのは、その人を取り巻く環境が大きく影響しているという立場をとっている。度数の高い蒸留酒が手に取りやすい環境にいる人はアルコール依存症になりやすい。ストレスの多い環境であればなおさらだ。このあたりの主張が正しいのかどうか、私には分からない。だけど、百年前の人は、太ると分かっていながらも甘いものやファストフードを嗜好し健康を害していたり、ネットゲームにハマり時間と金を費やしたりする現代人の姿は、想像すらしなかっただろう。今まで存在するしなかったものに依存するのは、確かに環境が依存することを可能にしたからであろう。

 では、どこからが依存でどこからが依存ではないのか。

 このような癖は、ある程度までは、だれにでも生じる可能性がある。一方、私たちが依存者と呼ぶのは、自分や他人に害を与えるとわかっていても、そんな癖を手放せない、あるいは手放そうとしない人たちだ。  (p21)

 しかし、ここまでは正常でここからは依存症、というラインはすっぱりとは決められない。依存症はスペクタルなのだ。
 
 このように書かれると不安になってくる。いつか自分も「廃人」になってしまうのではないか、という恐怖。だって次の日に支障が出ることが分かっていながらも、夜遅くまで本を読んでしまったことは一夜や二夜の話ではない。自分は結構ハマりやすい人間なので(そして現実逃避が大好き)、何かに依存してしまう可能性は十分にあると思う。

 この本、そんな時はどうしたら良いのかといった対策については、詳しく書かれていない。ただ、依存症の更生のためプログラムも良いビジネスになっているらしい。あと、宗教のいいカモにもなっていると。(ただ本書はイギリスやアメリカを念頭に置いているため、日本ではどうか分からない)
 依存するにも、依存から抜けるにも金がかかるとは。
 ちなみに著者は以前、アルコール依存症だったらしい。その頃のエピソードもいろいろと書かれているがなかなか深刻そうだ。そして何よりも興味深いのが、断酒しアルコール依存症から抜け出した今も、依存癖は治っておらず、クラシック音楽のCDの蒐集をしてしまうというところ。買い物依存の一種か。
 アルコールや薬物やギャンブルなんかよりも、CDにハマるくらいはいいのかもしれない。一度何かにハマってしまったら、そういうもんだと割り切って生きるしかないのかなあ。

読書録

『依存症ビジネス 「廃人」製造社会の真実』
著者:デイミアン・トリプソン
訳者:中里京子
出版社:ダイヤモンド社

依存症ビジネス――「廃人」製造社会の真実