読書録 地方生活の日々と読書

趣味が読書と言えるようになりたい。

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学生を卒業しました。印象的だった本best5

今週のお題「卒業」

 昨日、大学の卒業式だった。引越し先の町から大学までの交通費がざっと見積もって往復8万ほどなので出席しなかったけど。
 ともかく6歳の時からはじまった20年近くにわたる学生生活が終わるわけだ。よく順調にレールから外れずここまできたなと我ながら思う。もちろんレールに乗ったまま来てしまい本当によかったのかという思いもある。

 学生時代に読んで印象的だった本を上げてみようかなと思ったが、これといった本が思いつかず愕然としている。大学入学以降に限っても、1000冊以上は読んでいる。漫画も含めると400冊は本を買った。それでも自分の中にはほとんど何も残っていない。高校のクラス劇の脚本の印象はくっきりと残っているのに。
 それでもここ数年の読書生活で、一生手元に残しておこうと思った本は増えたように思う。それだけでもよかったと思うべきだろうか。

印象に残っている本を5冊。

 思い出すままに書いてみる。

『戦争と一人の女』坂口安吾

 大学1年生のときに読んだ本。高校生のとき『白痴』を読んだときにはそこまで心を動かされなかったのだが、『戦争と一人の女』『続・戦争と一人の女』は読んだときにゾクゾクときた。この二編は桐野夏生編のアンソロジーで読んだ。このアンソロジー『我等、同じ船に乗り 心に残る物語-日本文学秀作選』は、一緒に読むとさらに面白い物語がペアで収められている。収録作は題名どおり秀作ぞろい。個人的には神アンソロジーだと思っている。
 また『戦争と一人の女』、去年映画化もされている。住んでいた町では公開期間が一週間しかなく、見に行くことができなかったのがちょっと心残り。

『白鯨』ハーマン・メイヴィル

 人生で一番頑張って読んだ本。岩波文庫の八木敏雄役で読んだ。新潮文庫の田中西二郎訳は挫折。そのせいもあってか、読み終えたときは感慨深かった。物語として好きなところは、船に乗り込む前の手続きやらなんやらの陸のシーン。海洋冒険小説は、船に乗る前が一番わくわくする。スティーブンソンの『宝島』も第1章が好きだ。豆知識的に好きなところは、「鯨は魚だ!」と主張する章。昔の人の生物観が興味深い。
 この本は、泊り込みの実習中に読んだ本でもあり、読んでいたシチュエーションを含めて思い出深い。この実習には『白鯨』上中下巻のほか、コンラッド『闇の奥』と古川日出男『ベルカ、吠えないのか?』を持参し、川端康成『雪国』と伊藤計劃虐殺器官』を借りて読んだ、はず(長期の実習だった)。

『夜と霧』ヴィクトール・フランクル

 初読は中学生か高校生のとき。大学一年生のときに図書館で借りて再読し、その後「100分de名著」でちょっとしたブームとなっていたときに購買し再々読。なかなか本屋に売っておらず、探した覚えがある。「100分de名著」のテキストも買った。フランクルのほかの著書も何冊か読んだ。が、未だに消化しきれないところがある。私の人生は、私に何を問うているのだろう・・・・・・というか、本当に私は問われているのか?意義や目的がないと生きていけないのか?
 捕虜になったらどうしよう、どうしたら生きていけるのだろうと考えながら読んだ気がする。フランクルについてのエッセイ、河原理子『フランクル『夜と霧』への旅』も面白かった。

『貧乏人の経済学 - もういちど貧困問題を根っこから考える』アビジット・V・バナジーエスター・デュフロ

 さくっと読めて面白い。常識という思い込みを揺さぶられる本。国内外問わず貧困系の本もけっこう読んだ。両親よりも金持ちになることはないだろう、生涯賃金も5000万くらい低いのだろうなという諦めが、私にこれらの本を手にとらせるのだろう。
 貧困系の本でも興味深かった本が『貧乏人の経済学』。「貧乏人」といえども我々と思考方法は変わらないのだなということを教えてくれる本。この本からだけではないが、大学時代を終えた今、人間なんて誰も彼も大して変わらないという認識を持つに至った。偉人も無名の人も、同じ人間に変わりない。個体間の能力差なんてたいした差ではない。大人というのももっと高尚な生物だと思っていたけど、どうやらそうでもないらしい。

『不滅』ミラン・クンデラ

 学生時代の後半は海外文学というか翻訳ものの小説をよく読むようになった。翻訳調が苦手という友人もいるが、一度はまると抜け出せなくなる麻薬のような効力があると思う。最近図書館では、翻訳ものの小説と日本の私小説を一緒に借りることが多い。一応、解毒剤も読んでいる。翻訳小説を本格的に読むようになったのはジョン・アーヴィングの『ガープの世界』を読んだことがきっかけだ。『ガープの世界』はなかなか痛い小説だった。それでも、それからぼちぼちと読むようになり、クンデラに出会った。『存在の耐えられない軽さ』もよかったけど、個人的には『不滅』の方が好き。作者が作中に出てくるメタフィクション的なところもあり、ほんと小説って何でもありだなと思った。クンデラは未読の本を積んであるので早めに消化したい。


 以上、五点挙げてみた。挙げてみて科学系のノンフィクションも詩もエッセイも挙げていないことに気づいた。本を紹介するというのもなかなか難しいものだ。