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経済成長の先、われわれはどこへ行くのか。『路地裏の資本主義』平川克美

 『路地裏の資本主義』を読んだ。角川SSC新書の一冊。普通の新書よりも一回り大きく、行間も広い。新鮮。

 本書は資本主義とその周辺について考えるエッセイである。専門書ではない。「路地裏」という題名があるからと言って、直接的に路地裏について語られるわけでもない。

『路地裏の資本主義』は、わたしたちが今生きている、資本主義生産様式の世界を、肌身に感じるやり方で理解したいというわたしの思いから名付けられたものであり、できうる限り平明な事実を積み重ねて、資本主義というものの「素晴らしさ」(あるとすればですけど)「矛盾」「軽薄さ」「あざとさ」「いやらしさ」(おお、悲観的なものばかりです)といったものを浮き彫りにできればと思っていました。
 いや、どちらかと言えば、わたしたちが今生きているこの世界について、それがどんなに素晴らしいものかというよりは、どんなに不完全であり、残酷であり、いい加減なものであるのかについて、書き綴ってみたと言ったほうがよいかもしれません。 (p3)

 だから答えらしい答えも、提言もこの本には書かれていない。
 その代わり、本書の根底には著者の問題意識が流れている。その「問題」とは、「人間は破壊と建設を繰り返しながら、どこへ行こうとしているのか」ということだ。われわれはどこから来たのか、われわれは何者か、われわれはどこへ行くのか。「仮に、このまま経済成長を続けられたとして、わたしたちは何処へ向かおうとしているのかという、文明史的な問いにどう答えたらよいのかということなのです」。経済が成長しきった先には何があるのか。個人的には、経済が成長しきる前に紛争やら天変地異やらハイパーインフレやらが起こるだろうからそんなこと気にしなくとも良い気もするのだけれども・・・・・・まったく、どちらにしろ未来を想像すると暗澹たる気分になる。基本的に、将来については悲観するようにしている。未来の予測ができなさすぎる。時代の変換点というのは、まさに今のような時を言うのかもしれない。それとも、自分が今まで気づいていなかっただけで、常に未来は真っ暗闇だったのかもしれない。
 閑話休題。目次は以下。

 はじめに
 第一章 資本主義のまぼろし
 第二章 路地裏の資本主義
 第三章 国民国家の終わりと、株式会社の終わり
 第四章 "猫町"から見た資本主義
 第五章 銭湯は日本経済を癒せるのか
 おわりに
 参考・引用文献

 最近、よくお金について考える。学生から社会人となり、消費者から一応生産者となったからだろうか。
 それにしてもお金とは不思議だ。考えれば考えるほどお金とは何か分からなくなってくる。本書で著者は、金とはフィクションだという。それはそうだ。資本主義もフィクション。そう、フィクションにしか過ぎない。しかし人類はフィクションなしには生きられない。
 著者は現在の資本主義(とそれがもたらす弊害)には批判的である。けれども、資本主義を否定するわけではない。人類は、資本主義に代わるフィクションを生み出したが、そのフィクションも資本主義と同様、完璧なものではなかった。誰もが幸せになるシステムを私たちはまだ見出せていない。フィクションであるお金は、さまざまに形を変え(いや、最近は形すら失いつつも)、これからも社会の中を回り続けるだろう。そして私は間違いなく、お金の恩恵に与っている人間の一人である。お金というシステムがなければ、実家を出て知り合いが一人もいない土地で一人暮らしなんてできなかっただろう。

 私はこれから数十年、金を稼ぐことに人生の大半を費やすだろう。それが良いことなのか悪いことなのかよく分からない。金を稼ぐのは食べるためであり、だとすると今の生活は、狩猟採集で日々の食べ物を得ていた一万年以上前の人々の生活とたいした違いはないのかもしれない。人は結局、食べて成長し生殖し遺伝子を残すために生きている一動物である。
 でもそれ以上の何かが、金を稼ぎ、金で物を買い消費するという行為の中には含まれているような気がする。先ほどから頭の中に

amazarashiの『ラブソング』の一節が鳴り響いている。

 消費せよ 消費せよ それなしではこの先生きていけない
 消費せよ 消費せよ それこそが君を救うのだ

 この歌詞の「君を救うのだ」という部分が「つくるのだ」と聞こえる。私というものは、私が消費した大量のつまらない物たちによって形作られているのかもしれない。ふと、そう思った。
 著者は『「消費」をやめる 銭湯経済のすすめ』という魅力的な題名の本も書いている。機会があれば読んでみたい。

読書録

『路地裏の資本主義』
著者:平川克美
出版社:KADOKAWA(角川SSC新書)

路地裏の資本主義 (角川SSC新書)