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読書録 本読みの貪欲

近畿地方の某田舎町で一人暮らし中。

「サヨナラ」ダケガ人生ダ 『画本 厄除け詩集』井伏鱒二

読んだ本

 井伏鱒二といえば『山椒魚。小説家というイメージが強く、詩はほとんど読んだことがなかった。
 それでもどこかで聞いたことのあるフレーズ「コノサカヅキヲ受ケテクレ」「サヨナラダケガ人生ダ」井伏鱒二が、于武陵の漢詩『勧酒』を和訳したものだ。「人生足別離」を「サヨナラダケガ人生ダ」と訳すこの言語感覚。原文に縛られない自由さ。
 この詩集は井伏鱒二のことばの世界のエッセンスがぐっと詰まった一冊である。

「おまじなひには詩を書くことだ」

 本の帯にはこうあった。

 風邪をひかないために詩を書いた。

 『厄除け詩集』という題名と共にこんな言葉を見つけてしまったら、もう読むしかないだろう。この言葉は詩集の最後に収められている『冬』という詩をイメージしたものだろう。
 いいなあと思う。

 詩を書けば風邪を引かぬ
 僕はそれを盲信したい

 風邪を引かないおまじないが詩を書くこと。いいなあ。でもきっと寒い冬の日に隙間風吹き込む部屋でこの詩を書いたのだろうなと思う。風邪の引き始めだったのかもしれない。
 そしていつか、私もこんな言葉を言ってみたい。詩作に励む人生か。悪くない。


 本書に収められている詩は、旧仮名遣い&旧字体&カタカナ遣いでぱっと見は読みにくい。しかしけっして難しいことを難しい言葉でうたった詩ではなく、題材もその表現も私達の生活に馴染みあるものである。一篇の長さも短い。どこか素朴で、つい口ずさみたくなるような詩だ。
 収められているのは30篇ほど。そしてそのすべての詩に、金井田英津子の挿画つき。そしてこの挿画が良い。大胆さと繊細さが同居しているような素敵な画が詩を引き立てている。詩とのバランスがいいのだろうか。絵画については詳しくないが、ずっと手元に置いておきたくなるような、そんな一冊に仕上がっている。
 個人的には、昭和初期?の町の様子を描いた『逢侠者』の挿絵が好き。

 本書に載っている経歴によると、金井田英津子は版画作品を発表をする傍ら、本の造本・装幀・挿画を行っているそうだ。漱石の『夢十夜』や百閒の『冥土』の画本も出版されているそう。読んで、眺めてみたくなってきた。

読書録
『画本 厄除け詩集』
著者:井伏鱒二
画:金井英津子
出版社:長崎出版株式会社
出版年:2012年

画本厄除け詩集

講談社文芸文庫からも『厄除け詩集』は出版されているようです。今回読んだ『画本 厄除け詩集』には解説等がないので、機会があったら文庫版も読んでみたい。