池澤夏樹=個人編集『日本文学全集29 近現代詩歌』
都会で学生時代の友人に会った。
その帰り道に本屋へより、前から欲しかった、池澤夏樹=個人編集『日本文学全集29 近現代詩歌』を買った。
ところで都会へ出ると建物の多さに圧倒される。
特に生活の場であるアパートやマンションの数に圧倒される。
ベランダの数だけ部屋があり、その一つひとつに人が住んでいるという、なんてことのない事実に圧倒される。
人は一人では生きていけないというけれども、では、何人いれば生きていけるのだろう。
そんなことを思ったり。
これだけ人間がいるのだ、生活しているのだ、私と同じような悩みを持つ人間も必ずどこかにいるだろうし、私と同じくらいダメな人間もきっといることだろう。
と、希望に似た何かを、その地平を覆いつくすかのようにみえる住宅街の中に見出したり。
私は、結局のところ、不安なのだ。将来、未来、明日。言葉を変えてみたところで、何も見通せない。
だから、いっそのこと自分の手で「未来」を終わらせてしまいたいと思う気持ちもわかる。今は、確かに、ここにある。「未来」を確実な「今」に凍結したい。
確実でないものは怖い。
確実な未来がほしい、確実な生活がほしい、確実な仕事がほしい、確実な愛がほしい。
そんな切実な願い。一介の生物に過ぎない人間には、手にできる「確実」はあまりにも少ない。
しかし人間には言葉がある。確実でない気持ちや、確実でない願いを、言葉を使って少しでも「確実」にしようとする。いや、もちろん言葉を尽くしたところで「確実」を手にすることはできない。しかし確実でないことを改めて認識することくらいはできるようになる。
そんな祈りにも似た行為が詩作なのではないだろうか。