読書録 地方生活の日々と読書

趣味が読書と言えるようになりたい。

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引っ越しました。【日記】

 先週末に引っ越した。最近、あまり本を読めていないのは、この引っ越しの準備で大忙しだったからである。仕事も年末進行で忙しかった。なんだか随分と長い期間、面白い小説を読んでいない気がする(多分気のせい)。
 数えてみると、この10年で4回目の引っ越しだ。親が転勤族であったこともあり、引っ越しには抵抗がない。知らない街で新しい生活が始まるのも好きである。

 私の趣味は読書と日々のスーパーでの買い物ぐらいしかいないので新しい街に住むとまずは最寄りのスーパーを探す。庶民的な安いスーパーだと嬉しい。
 特に県を跨いだ引っ越しだと、食文化の違いから、スーパーに並んでいる調味料や食材が違っていたりするので、ちょっとした冒険のようだ。今回の引っ越し先は同じ市内なのでそのような楽しみは無いのだが、それでも新しいスーパーを開拓し、お気に入りのスーパーを見つけるまでの試行錯誤はとても楽しみだ。

 それから図書館。図書館は言わずと知れた趣味読書の強い味方だが、同じ市内の公立の図書館でも図書館ごとに蔵書は違うし、それぞれの特色がある。もちろん蔵書数が多く、きれいな図書館だった嬉しいが、昔ながらの雰囲気漂う小さな図書館もそれはそれで味がある。引っ越しの最寄りの図書館は市立図書館の分室という形なので、規模の小さな図書館だと思うが、どんな棚があるのか楽しみだ(今住んでいる市の図書館は、インターネットから予約や取り置きができるので、蔵書数が少なくとも楽しめるのも大きい)。

 ところで、ちょっとした自慢だが、新居には自分の部屋を作った。1.5畳ほどの書斎で、一面に作りつけの本棚がある。小さいが夢の空間だ。ただ問題は、せっかくの本棚も、手持ちの本を入れると、いっぱいになってしまったことだ。まだまだ欲しい本はいっぱいあるのにどうしようか。
 図書館で読めばよい? もちろんそれはそうであるが、でもやはりお金を出して買いたい本というものがある。応援したい作家さんや訳者さんがいる。買える本は買っておきたいという気持ちもあるし、しかし、空間は有限なので悩ましいところだ。お金も有限だ。
 今日は本屋へ行き、とりあえず3冊本を購入した。文庫本の二冊は本棚に収まったが、単行本の一冊は本棚に入りきらずに机の上に立てかけている。
 ウォルター・シャイデル著『暴力と不平等の人類史』。700ページほどもある大著である。以前から気になっていた本で、引っ越ししたら是非買おうと考えていた本なので、とても楽しみだ。

 さて2020年も終わる。振り返るとやはり、社会的には「新型コロナウイルス」一色だったかと思う。しかし個人的には、例年通り様々な出来事があったし、色々な本との出会いもあった。充実した一年だったかと問われると、なんとも答えようがないが、それでも一年分の重みがしっかりとある年だった。
 来年はどんな年になるのだろうか。充実した毎日を送ることが出来ればよいのだが。

6年使ったKindleが壊れた【日記】

 久しぶりのブログです。相変わらず毎日、本を読んでいるのだけれど、あまり感想を書けずにいる。12月末に引っ越すことになったので、読んだ本を片っ端から段ボールに詰めこんでいるからだ。ちなみにここ1ヶ月で、読んで一番面白かった小説は、ミラン・クンデラ著の『冗談』。処女長編でこんなに面白いのか、と驚いた。好きな作家の本だし、感想を書いておきたい気持ちはあるのだが、『冗談』も今や段ボールの海の中だ。
 もうすぐ引っ越しということもあり、新しい本も買わないようにしている。本屋に行くと買いたくなるので、本屋自体に寄らないようにしている。

 物体としての本をあまり買えないとなると、頼りになるのは電子書籍である。
 しかし、タイミングが悪いことに、使用していたKindleが、突然動かなくなってしまった。再起動もできない。
 購入履歴を確認すると2014年から使っていた。6年半の使用。そろそろ買い替えどきなのか。積んでいる電子書籍も何冊もあるので、電子書籍リーダーのない生活はもはや考えられない。タブレットで読むことはできるが、我が家ではタブレットは家の中で使うことを前提に運用しているので、外でも読書できる電子書籍リーダーはやはり欲しい。
 そうこう考えているうちに、Amazonブラックフライデーのセールを知った。3000円OFF。壊れてしまったものは仕方がない。これからの6年の読書のための投資と思い、思い切って購入した。Kindleでは文章メインの本しか読まないので、一番安い無印のKindleを購入。Kindle Paperwhiteの防水機能(=入浴中もKindleで本が読める)はかなり魅力的だが、風呂では電子書籍ではなく、紙の本を読もうと割り切った。

 つい先ほど、さっそく購入したKindleが届いた。今まで持っていたものよりも一回り小さくて、軽い。
 残った問題は、今まで使っていたKindleをどうするかということだ。
 もちろん、使わない道具は捨ててしまえばよい。断捨離だ。電子書籍リーダーに本としての中身はないのだから。
 しかし、なかなか割り切れない自分もいる。
 考えてみれば、このKindleとはいろいろな場所に行った。
 学生時代のフィールドワーク。就職活動。社会人になってからは旅行や出張の度に持ち歩いた。新婚旅行にも持っていった。
 2年前、アフリカにツアー旅行で行ったが、思い返してみると、異国の情景や珍しい食事の味わいよりも、砂漠の中にあるホテルで読んだSF小説『星を継ぐもの』の面白さの方が強く印象に残っている。『星を継ぐもの』も、Kindleで読んだ。
 趣味読書歴も20年を超えると、読書の楽しみや思い出というものは、本の中身だけでは決まらないことが分かってくる。本を手に取った時の状況やシチュエーションも、大切な読書との思い出となる。その思い出の一翼を担ってきたデバイスを、使えなくなったからといって簡単に捨ててしまうのは忍びない。
 どうしたものかなと思いながら、古い相棒を眺める。
 いくら画面を触ってみても、もう、彼は応えてくれない。

祝・映画化!『ナイルに死す』【読書感想】

 もうすぐ映画化ということでアガサ・クリスティー『ナイルに死す』を再読。久しぶりのクリスティーです。ナイル川クルーズで起こる殺人事件をたまたま居合わせた探偵ポアロが捜査し推理し解決するというミステリー。プロットだけを見れば典型的な推理小説の形であるが、そこは流石ミステリーの女王クリスティー、読ませます。
 特徴的なのはなかなか殺人事件が起きないこと。それどころか『ナイルに死す』という題名にも関わらず、なかなかエジプトにも行かない(80ページからの第二部でようやく舞台はエジプトへ)。事件が起こる前の部分、登場人物それぞれの姿をじっくりと書き出している。
 だからだろうか。今回読んだ早川書房クリスティー文庫(訳者は加島祥造さん。同じくクリスティー文庫からは黒原敏行さん訳の新訳も出ています)の冒頭には次のような注意書きがある。

訳者からのお願い

 はじめは少しゆっくり読んでください。登場人物表を参考にして、各人物の様子を頭に入れ、地図を参考にして、この舞台を想像してください。あとはーー前書きの末尾でクリスティー女史の言う通りです。

 以前読んだのは別のレーベルのものだったのかな。この文章を読んだのは初めてな気がする。
 ちなみに前書きの末尾には次のようにある。

 自分では、この作品は”外国旅行物”の中で最もいい作品の一つと考えています。そして探偵小説が”逃避的文学”だとするなら、(それであって悪い理由はないでしょう!)読者はこの作品で、ひとときを、犯罪の世界に逃れるばかりでなく、南国の日差しとナイルの青い水の国に逃れてもいただけるわけです。

 素敵な文章。逃避的文学。

 さて。注意書きに従って丁寧に読む。登場人物表、地図、船室の部屋割り表と本文を行ったり来たりしながら読み進める。
 殺人事件が起こるころには、登場人物達に親しみや反感を覚えている。そして事件が起こる前に、読書の私は、著者クリスティーにすっかり騙されていたことを、最後まで読んでから改めて知ることになるのだ。

『ナイルに死す』とアガサ・クリスティーのミステリの魅力

 改めて読んで著者の本が長年に渡り多くの人に愛される理由の一端を知ることができた気がした。
 もちろんミステリとして優れているということもある。しかしそれ以上に特徴的なのは著者が登場人物に向ける眼差しなのではないか。著者は人間の「愚かさ」を生々しく書き出す。『ナイルに死す』は登場人物の多い作品だが、一人ひとりの性格やそれぞれの「愚かさ」を鮮明に描いている。探偵役であるポアロも含めて。人間の愚かさというのは時代が変わろうが、克服されるものではない。だからこそ著者の物語は時代や地域を超えて愛されているのではないか。
 そして人間が一番愚かになるのは恋に落ちたときである。この物語では3組の恋愛模様が描かれる。新聞に書き立てられるほどの派手な恋愛もあれば、殺人事件現場という異様な状況の中でひっそりと芽生える恋もある。事件の解明と共に変化していく恋愛模様や人間関係も、この物語の読みどころのひとつである。その結果はあるものにとっては解放であり、あるものにとっては破滅であった。
 恋や殺人事件といった非日常時に見せる人間の素顔を、筆者は簡潔だが立体的に書き上げる。ミステリにありがちな「役割」としてだけの登場人物はほとんど出てこない。型どおりだけではない登場人物の描写を読むと、さすが『春にして君を離れ』を書いた人だなと思う。
 個人的に一番気になった人物は、この恋愛劇の一翼を担う登場人物の一人でもあるファーガスン。登場人物表の言葉を借りれば「社会主義的な男」なのだが、なかなかに拗らせている人物として物語に登場する。彼についてはもっとその背景を知りたかったなあ。興味深い人物であった。

映画化。ケネス・ブラナー監督『ナイル殺人事件

 『ナイルに死す』は何度か映像化や舞台化がされているそうだ。原作者アガサ・クリスティー自身によっても戯曲化されている。
 2020年の秋、本作は再度ナイル殺人事件として映画化される。公開日は10月23日だそう。監督はケネス・ブラナーさん。もちろん映画館へ行くつもりだ。映画を見る前に原作は読んでも前情報は摂取しない派なので、詳しいことは分からないが、なんだかとても楽しみだ。
 個人的にはトリックの要である「空白の時間」の演出をどのようにしているのか、とても気になっている。犯人もトリックも知ってしまっているが、おおいに騙されたいと思う。

 それから改めてアガサ・クリスティーの略歴を見たのだが、1890年生まれで1920年デビューとのこと。そうか30歳で作家デビューされたのだな、となんだか妙に励まされた。

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