ジョン・ハートの処女作『キングの死』を読んでみた。
今年は正月らしいことは何もしない、と決意した。
お世話になった方への挨拶と年賀状ぐらいしかしない。
しかし寝正月とも揶揄される年末年始の怠惰なる雰囲気にだけは便乗しようではないか。
本年の図書館納めも無事終えた。
十分な本と、読書のお供の洋酒と日本酒の用意ができた。
後は時を待つのみ。
一昨日購入したジョン・ハート作『キングの死』(早川書房)を読了。
ミステリの癖に、なかなか嫌な主人公であった。
「癖のあるキャラクター」という褒め言葉があるが、本書の登場人物たちも皆、癖が強い。
ただし、その「癖」はやけに現実染みた嫌な「癖」である。
嫌な登場人物たち。
まずはキングだ。
キングは主人公の父親である。
金儲け至上主義但し腕はピカイチの弁護士である。いや、あった。
彼は尊大であり、成り上がり者であり、行き過ぎた亭主関白である。
主人公ワークは刑事事件担当の弁護士である。
彼は彼らのキングである父親を嫌っている。
しかし読者の私から見たら、彼もまた他人のことを考えぬ自分勝手な人間である。
さらに言えば馬鹿である。
感情的に、凶器の隠滅を計っちゃったりもする。
さらに浮気中。
主人公の妻バーバラもこれまた嫌な女である。
あなたが思い浮かべる美しいが嫌な性格の女を想像してみてほしい。
見栄っ張りで、上流階級のお友達との交歓がステータス。
それがバーバラだ。
妹のジーン。暗く弱い女である。
不幸の星に生まれたかのような過去が冒頭で明かされる。
自殺未遂歴も精神病院への入院歴もある。
感情的で良く分からない。
ジーンの恋人アレックス。
凶暴を絵に書いたような女。
美しいバーバラもだが、アレックスとも友人にはなりたくない。
驚きの犯罪歴も後半に明かされる。
そして刑事ミルズと地方検事ダグラス。
本書の名探偵役…では全くない。
馬鹿だけど無実な主人公を容疑者とみなし、徹底的に追い詰める。
まあ追いつめられる主人公も主人公、とミルズには同情も覚えるが。
ざっとこんな感じである。
タイトル通り、キング=父親の死体の発見から物語はスタートする。
単純な謎解きものではない。
サスペンス有り、法廷劇有り、相続のごたごた有り、初恋の思い出有り、トラウマの克服有り、宝探し有り…
豪華な600ページである。
そして結末は…まさかそこへ行くのか!といった感じ。
いやあ金は恐ろしい。
ただ、ちょっとへそ曲がりに思ったりもする。
本作品では主人公にとっては乗り越えるべき壁でしかないキングのことだ。
貧乏な生活から身一つで成りあがった父親。
結局、殺されてしまった父親。
彼は可哀想な人として書かれている。
金の有無が幸せ、不幸せを決めるとは思わない。
彼に同情を覚えるのは、彼がこのようにしか、生きることができなかったからだ。
ちょっとした描写だったが、彼の金庫に仕舞われた写真に、同情を覚える。
結局この小説は、一家のキングにしかなれなかった悲しい父親と、キングの国土内に捕らわれて生きて行くしかなかった悲しい家族の物語である。
最後に一言。
想像以上に面白かった。
著者ジョン・ハートはなんとこの完成された小説が処女作である。
もっと読みたい。
面白いミステリを読み続けていたい。