読書録 地方生活の日々と読書

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秘密=自らの読書歴 『漂流 本から本へ』筒井康隆

今週のお題「ナイショにしていたこと」

ナイショ、すなわち秘密。
とある物事を秘密とするのは様々な理由があろう。
私の場合、恥の意識ゆえに秘密とすることが多い。恥ずかしいから誰にも言えない。
その言えないことのひとつが、読んできた本である。
本棚なんて誰にも晒したことがない。
夜闇に乗じてこっそりと処分した本も多い。
暇つぶしのために大学に持っていく本も、友人に見られたときに恥ずかしくないかで選んでいる。

どうして読んできた本を晒すのは、こんなにも恥ずかしいのか。
それは私の中に「本は人を表す」という意識が強いからだろう。
読んだ本は人の根幹をなす血肉となり、読破してきた本はその人の歴史である。
このような根拠のない信念が私を読書に向かわせるが、一方で強烈な恥の意識を植え付ける。
読んできた本は、私が作りあげてきた仮面を容赦なく剥がし、矮小な私を突きつける。
矮小でどうしようもない自分を隠蔽するためには読書経験をひたすら秘密にするしかない。

それでも秘密を誰かに晒したいという顕示欲がありこのようなブログを作ったのだ。
自分の中に美意識のボーダーがあり、それを越えた本をここで紹介している。
ブログにすら晒せないような本(自分基準では)も、もちろんある。

『漂流 本から本へ』

しかし一方、他人が何を読んできたかということには興味がある。
他者のナイショを知ることは、この上なく甘美である。

本書はSF作家筒井康隆氏が読んできた本についてのエッセイである。
魅惑的なタイトルと筒井康隆という名前に、すぐさま手にとった。
朝日新聞で2009年から2010年にかけて掲載されていたもので、ひとつのエピソードが3ページ程で読み切れる。
この本の良いところは、著者の歴史に沿って読んだ本が紹介されているところだ。
目次をひく。

第一章 幼少時代 一九三四年~
第二章 演劇青年時代 一九五〇年~
第三章 デビュー前夜 一九五七年~
第四章 作家になる 一九六五年~
第五章 新たなる飛躍 一九七七年~

紹介されている本は純文学やSFに留まらない。
漫画や戯曲や教科書がどのような状況で読まれ、著者にどのような影響を与えたのか。そして著者にどのような物語を紡がせたのか。
どのような子供時代を、青年時代を過ごしたのか、本と本の間に著者の姿が見え隠れする。
ブックガイドとしてだけではなく、筒井康隆氏を知るためにも、本書は有用である。私は役者としての筒井康隆を知らなかったので、演劇に関する記述は驚きだった。

読書録
『漂流 本から本へ』
著者:筒井康隆
出版社:朝日新聞出版
出版年:2011年

漂流 本から本へ