読書録 地方生活の日々と読書

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18禁かつカンヌ映画祭最高賞受賞作『アデル、ブルーは熱い色』アブデラティフ・ケシシュ監督

映画館へ行ってきた。
映画を見る際は、できるだけ事前情報を仕入れないようにしている。
情報化社会ではどこにネタばれが転がっているか分からない。
面白そうな題名やポスターだなと思ったら、苦手なホラーでないことを確かめて、映画館へ向かう。
映画館まで行き、上映時間がほぼ3時間と長いこと、18禁であることを知った。
18禁の映画……見たことない。平日の午前中。リクルートスーツ着用中。
一瞬躊躇したが、映画館についたのが上映開始時間ぎりぎりであったため、急いでチケットを買い、シアターにもぐりこんだ。
大きくはないシアターの席が半分ほど埋まっていた。前から二番目の列に空席を見つけ、座る。
客席には年配の方が多かった。カンヌ映画祭最高賞受賞作だからか、上品な服装をした老婦人もおり安心した。
あたりはすぐに暗くなった。
あっという間の3時間が始まった。

よく考えれば映画館で観た初めてのフランス映画でした

確かにこれは18禁だ。日本ではテレビ放送されることはないだろう。
映画を観終わり、思った。
男と女、女と女のセックスシーンがある。特に物語の根幹となるアデルと年上の女の恋人エマとのシーンはこれでもかというほど長い。濃厚。リアル。フランス人すごい。
けれども、その描写が真に迫っているからか、行為自体が持ついやらしさはあるのだけれど、嫌な感じはない。
そもそも扱っているテーマが同性愛であるが、そのようなことに免疫のない人でも、抵抗なく見ることができると思う。
それはアデルがごく普通の、どちらかといえば男にもてる高校生であり、それ以上でもそれ以下でもないからだろう。
私たち観客は、アデルの行為を見ながら、彼女の葛藤と後悔と快楽と愛情を見る。

以下、ネタばれ『アデル、ブルーは熱い色

物語の筋は単純だ。
高校生のアデルは、道ですれ違った青い髪の女に一目ぼれする。
同級生の彼氏とのデートの夜に、彼氏ではなく、彼女との行為を夢想するほどに。
青い髪の女エマは芸術家を目指すレズビアンであった。
二人は再開し、自然と付き合い、アデルが幼稚園に就職後は同棲をする。
そのころには、エマは髪色を戻していた。
やがて二人はすれ違うようになり、寂しさに耐えかねたアデルは同僚の男と浮気をしてしまう。
それが決定打となり、二人は別れてしまう。
二人の間は、もうかつての恋人同士には戻れない。

ありきたりなストーリーである。盛り上がるシーンもあまりない。
何しろ日本のドラマではお約束な「好きです!」というシーンもない。
あくまで日常が過ぎていく。
けれども飽きない。面白い。なんでだろう? これが映画の魅力か。
劇的なセリフはないし、そもそも会話もあまりない映画である。
言葉の代わりに雄弁に語るのが、アデルの表情である。
この映画、接写が多い。
映画館の画面に、アデルの顔が大写しになる場面が多々ある。
私たちは彼女の表情に見入り、言葉にならない言葉を聞く。

それにしてもフランスの高校生はすごいなと思った。
酒飲んでタバコ吸ってばかりかと思えば、真面目に授業を受け、政治デモに参加したりもする。(でもはなんだかとても楽しそう)
「高校生の恋」=「純粋」という図式は成り立たないのだろうなと思った。(日本でも成り立つのはファンタジーのなかだけか)
そもそも「純粋」の反対語は「不純」ではなく「現実的」なのかもしれない。
彼女の恋が純粋さだけでは語れないのは、不純だからではなく、あくまで現実の地続きとしての恋であるからだろう。

女の生き方として

ところで二人は何故別れなければいけなかったのか。
「人生に偶然はない」というセリフが映画の冒頭の方にある。
二人の恋が必然だとすれば、二人の別れも必然だった。
アデルが浮気したことが直接の原因だが、間接的には自己実現できた女とできなかった女の埋められない溝が原因ではないかと思う。
アデルは将来を堅実に考え、教師になる。
エマの「好きなことをしたら」という言葉に、曖昧な笑みを浮かべながら。
お互いの実家を訪ねそれぞれの両親と食事をするシーンがあるが、二人の両親(特に父親)が対照的なところが面白い。アデルの父の様子からは、堅実に稼げる職業につくことが重要だ、とのメッセージが伝わってくる。
それでもアデルは自らの選択で堅実な道を歩んだのだろう。
だからこそ、自己実現のために仕事に励むエマに「寂しい」と言えなかったのではないかと思う。
また寂しさだけではなく、仕事に励むエマを羨む、嫉妬心のような気持ちもあっただろう。

本作は愛の映画だ、と称賛されている。
でも、女の生き方の映画でもある。
長い上映時間が全く気にならない作品。邦画でもハリウッドでもない恋愛映画、是非映画館で見てほしい。
そして18禁かつカンヌ映画祭最高賞受賞作の映画に来る客層の観察も是非。

ブルーは熱い色 Le bleu est une couleur chaude

原作はフランスの漫画。
日本語に翻訳もされている。読みたい。