読書録 地方生活の日々と読書

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正直な読書エッセイ 池澤春菜『乙女の読書道』

 先日晒した本棚写真。今更ながら恥ずかしくなってきた。
 本棚の写真が印象的な読書エッセイを読んでいる。ちょっと前から気になっていた読書エッセイ『乙女の読書道』。題名に「乙女」って。なんだか恥ずかしい。しかし表紙写真――著者と思われる若い女性とその背後の文庫で埋め尽くされた本棚、しかもハヤカワSFがいっぱい――の魅力に惹かれ、思い切って手に取った。私の本棚とは雲泥の差である。
 著者は池澤春菜さん。誰?と思い、裏表紙の著者紹介を読む。

ギリシャ生まれ。声優、歌手、エッセイスト。

 おお、なんだかすごい。

幼少期から年間300冊以上を読み続ける活字中毒者として知られている。日本SFクラブ会員。父は作家・池澤夏樹、祖父は作家・福永武彦

 なんと池澤夏樹の娘さんらしいです。いやそれよりも年間300冊という冊数。別にたくさん読める人がすごいとは思わないが、それでも自分よりたくさん本を読んでいる人は尊敬してしまう。表紙写真の本棚も著者自らの本棚という。作家の子供という情報以上に、本棚の写真からは伝わってくるものがある。

 この人、ホントに本好きな人だ!
 しかも読書にメリットを求めない人だ!

 本文を読む。写真から受けた印象は間違っていなかった。読めば読むほど著者の読書好きがびんびん伝わってくる。誰もいない温泉に本を持ち込み、湯あたりで倒れたことがあるというからホンモノだ。

活字中毒な著者による読書エッセイ『乙女の読書道』

 読書エッセイや本についての本の中には、「ザ・名作」ばかりを取り上げているものがある。もちろんそのような本も面白いが、それでもちょっと嫌な気持ちを覚えてしまったりもする。ドストエフスキー?もちろん読んでいて当然でしょう、みたいな空気。名作を無難に紹介されてもなー、いい格好したいだけじゃないの、などと捻くれた私は邪推してしまう。著者が面白く読んだのが伝わってこないエッセイはあまり好きではない。

 自分は桜庭一樹の読書日記シリーズが大好きなのだが、それはこのシリーズが本の内容の紹介よりも、ミステリ作家である桜庭さんが、本をどのように買って(このシリーズには書店へ行く描写が多い)、どのように読んで、どのように友人と本について語ったか、ということを中心に書かれているからだと思う。そしてその買って読んで語るまでを著者が本当に楽しんでいることが行間からびしびし伝わってくる からだと思う。
 このブログでも本当は、「この本面白かったよ!」ということを一番伝えたいのです。


 閑話休題。この本『乙女の読書道』の目次には、古今の名作は並んでいない。その代わり、SFやらジーヴスやらハーレクインやらトンデモ時代劇やらが楽しげに並んでいる。
 まず一番はじめに紹介されているのがダン・シモンズハイペリオン。中身についてはほとんど触れられていない。が、超大作SFで読んだら夢中になってしまうのだろうなということは伝わってくる。
 もともとは本の雑誌での掲載コラムなので一つの章は3ページ程。あっという間に読めてしまう。なのでついつい次の章、次の章へとページを捲ってしまう。ページを捲った先にあるのは、まだ私が踏破していない読書道。これまであまりSFを読んでこなかったということもあって、この本で紹介されている本はほとんどが未読だった。新鮮。そしてとても面白そう。紹介されているのは、ちょっと捻くれてそうな本ばかり。

 例えばロイス・マクマスター・ビジョルド『死者の短剣』というファンタジーについて。

 第二巻最大の敵は、姑と義理の兄。もちろん悪鬼は出てくるし、ダグは大変な窮地に追い込まれるんだけど、印象的なのは何よりもプライドを重んじる偏屈な母親と、自分の仕事のことしか考えられない意固地な兄。三十七歳年の差カップルを襲う壮絶な嫁いびり……って何のお話だったっけ?

 ファンタジーなのに嫁いびり? こんなこと書かれたらついつい読みたくなってしまうではないか。本書はとにかく本屋さんに行きたくなる本です。また本代が膨れ上がりそう……

読書録

『乙女の読書道』
著者:池澤春菜
出版社:本の雑誌社

乙女の読書道