読書録 地方生活の日々と読書

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詩のこころとは? 嶋岡晨『詩のたのしさ』

 詩の本を読んだ。嶋岡晨『詩のたのしさ』講談社現代新書)である。平易で読みやすく、詩の引用も多々あり、そしてそれらの詩の作者別の検索表が載っており高評価。個人的には、好きな詩である高村光太郎の『道程』の引用があり嬉しかった。高村光太郎の詩はけっこう好きで、今朝も『美の監禁に手渡すもの』を読んでから家を出た。この詩、最近のマイブームで、「美の監禁に手渡すもの、我」のところのリズム感と、詩全体の屈折した理想主義的な感じが好き。

 このように、好き・嫌い、でしか詩を鑑賞できない自分が少し嫌になり、詩の本があれば読むようにしている。たまたま見つけたこの一冊、著者曰く、

 「詩は万人のためのもの」とは、フランスの詩人エリュアールのことばですが、わたしもまた同じ考え方を執筆姿勢の根本におき、駒の動かし方から丁寧に教えていく将棋の入門書のように、できるだけわかりやすく書き進めるつもりです。  (p6)

 という、まさしく自分のような詩の初心者向けに書かれた一冊だった。目次は以下。詩の技法などが網羅的に記されている。

はじめに
1 詩のこころ――発見のよろこび
2 比喩――ことばのよろこび
3 イメージのはばたき――絵画的要素
4 リズムの効果――音楽的要素
5 詩のかたち――創造のよろこび
6 主題と構成――完成をめざして
7 技法の工夫――独創性
8 可能性をさぐる――実験の意味
9 詩人の願い――夢の役割
10 詩の効用――すぐれた詩の条件
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詩のこころ

 詩を詩たらしめるもの、それが「詩のこころ」であると著者は言う。詩のこころとは、詩人の心の主観的・抒情的なはたらきのことであり、「わたしたちが、現実のある”もの ”に対しすなおになにかを感じ、素朴にこころを動かすこと」や、「ものを表面的にただ「美しい」とか「さびしい」とか感じるのではなく、より深く感じること」である。感じることはやがて考えることにつながっていく。思想性を帯びた詩も生まれる。
 
 ここまで読んで、難しいな、と思った。つまり、詩のこころとは何なのだろう、と。いや、分かるのだけれども、分からない。感性といわれても、私の感受性の感度は如何ほどであろうか。
 結局、自分は自分の感性をもってでしか、世界を見ることはできないし、詩を読むにあたってもその制限は付きまとう。自分は自分の体でしか詩を感じることは、そしてもちろん、詩を作ることもできないのだ。
 そういう目で改めて詩人たちの残した詩を読んでみると、「すごい」の一言だ。自分の世界の向こうからやってくる言葉たちと、自分の世界では決して組み合わさることのなかった言葉たちと、私は一篇の詩を読むことで出会うことになる。感受性の違い、個人差の絶望的なまでの大きさに改めて驚かされる。
 私は彼らのような詩を書くことはできないし、しかし、もしかしたら私にしか書けない詩もあるのかもしれない、なんて思ってしまったりした。

読書録

『詩のたのしさ』
著者:嶋岡晨
出版社:講談社講談社現代新書484)
出版年:昭和52年

詩のたのしさ (1977年) (講談社現代新書)

著者は詩人であり、詩人の研究者でもある、らしい。