読書録 地方生活の日々と読書

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ロボット三原則と長編SF アイザック・アシモフ著『鋼鉄都市』【読書感想】

第一条
ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。

第二条
ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。

第三条
ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。

 著者アイザック・アシモフの名前も、ロボット3原則も、もちろん以前から知ってはいた。しかし、SFやロボット小説をほとんど読まずに生きてきてしまったので、彼の本を読むのは鋼鉄都市が初めてだった。

 本当は著者の書いた別の本、『化学の歴史』ーー著者アイザック・アシモフ氏は科学ライターとしても有名であるそうだーーを読むつもりであり、ネット上の中古書店で注文したのだけれど、「本に書き込みが見つかったのでキャンセルします」とのメールがあり、気がついたら注文がキャンセルされていた。再注文すれば良かったのだろうが、なんだか読む気力が削がれてしまった。同時期に購入した『スパイス、爆薬、医薬品: 世界史を変えた17の化学物質』(P・ルクーター、J・バーレサン著)という本を読んだから、というのもある。このノンフィクションも面白くて、化学系の本に対してはとりあえず満足してしまった。

 そして代わりに長編小説鋼鉄都市を購入した。1953年に書かれた古いSFだ。楽しめるかどうか心配だったが、もちろん杞憂であった。

未来の地球における宇宙人殺人事件

 舞台は未来の地球。地球人はドーム型の都市(シティ)の中に住んでいた。そのシティの外に住んでいるのが宇宙人。宇宙人とは言っても、かつて地球から宇宙へ移民した人間たちの子孫である。彼らは宇宙で発達した技術と圧倒的な軍事力を携えて、再び地球へやってきたのだ。地球人と宇宙人の関係は、緊張していた。そこで発生したのが宇宙人の殺人事件。宇宙人は犯人は地球人であると考えている。場合によっては宇宙人は地球人に対し、膨大な賠償金を要求するだろう……トラブルを回避するためには、地球人たちの手で犯人を捕まえ、宇宙人側に犯人を引き渡すしかない。
 そんな事件を担当することになったのが、主人公であり地球人である刑事ベイリである。彼は宇宙人が派遣した人間そっくりのロボットのR・ダニールと共に、事件の解決に奔走する。

 そう、この小説は警察小説、推理小説のフォーマットに則って、物語が進んでいくのだ。ロボット嫌いのベイリは、ロボットであるダニールの挙動に戸惑いつつも、捜査を進め、仮説を立て、それを検証していく。ハヤカワ文庫のサイトを見ると「〈ロボット工学の三原則〉の盲点に挑んだSFミステリの金字塔!」と、本書を紹介をしていた。本書の面白さは、ベイリが泥臭く捜査進め、ポンコツな推理を繰り返しつつも、やがては嫌悪していたロボットであるダニールと協力して事件を解決するという過程にある。

 そしてそれを盛り上げるSFな設定。地球人たちはロボットを仕事を奪うものとして嫌悪しているし、宇宙人たちは地球人たちを病原菌の塊としてみている。地球は人口増加による危機も迫っており、食料はイースト菌で、配給制だ。

 事件の解決を目指すベイリは、やがて、地球へやってきた宇宙人たちの意図を知る。実はちょっとモヤモヤするところもあるのではあるが(ベイリ、宇宙人に感化されすぎ…)、なかなかに面白かった。地球人と宇宙人の対立が、途上国と先進国の対立のようにもみえた。普通のミステリでは味わえない壮大さがここにはある。

 さてこの小説には、続編もあるらしい。ベイリとダニールのバディをまた楽しみたい。と思ったら続編『はだかの太陽』は絶版でした。中古で買おうか悩んでいる。

鋼鉄都市

鋼鉄都市