読書録 地方生活の日々と読書

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スパイスカレーと読書。『アリバイ レシピ』(北森鴻著)【読書感想】

 久しぶりのブログ更新である。
 ブログも更新せず、それどころか読書もせずに何をしていたのかといえば、スパイスからカレーを作っていた。何を思ったのか味音痴のくせにスパイスをまとめ買いしてしまい、それらを有効利用すべくスパイスやカレー関係のレシピ本をめくってみては難しそう、時間かかりそうと思い、ため息をついていた。それでも何度か作っているうちに、簡単なチキンカレーくらいならレシピを見ずに作れるようになった。美味しいかどうかは置いておくとしても、作れるようになれば面白いもので、もっといろいろなものを作ってみたくなった。ということで予定のない日曜日、今日はスープカレー作りに挑戦していた。


 具材の下ごしらえをし、タマネギを炒めたり何なりしているうちに、ふと昔読んだ小説が思い浮かんだ。短編のミステリーで、大学生の登場人物が友人らから500円を集めカレーを振る舞うというシーンのある小説で、確か炒めたタマネギが重要な鍵を握っていた。
 何という題名だったか気になり、準備が一段落したあと本棚を漁った。料理、短編ミステリ、そして私の記憶に残っているといえば北森鴻さんの小説だろうと目星をつけた。はたしてそうであった。すべての短編で料理が素敵な小道具となっている連作短編集『メイン・ディッシュ』に収録されている『アリバイ レシピ』。これである。『メイン・ディッシュ』、多分過去にブログに書いたことがあると思うが、私の大好きな小説のなかのひとつである。『メイン・ディッシュ』収録小説のなかでは「駅弁」がテーマの『バッド テイスト トレイン』という小説が一番好きでよく覚えていたのであるが、他の小説についても意外と覚えているものである。それでも細かい筋などは忘れてしまっていたので、改めて読み返してみた。
 物語はまさにタマネギを刻む描写から始まっていた。

 つくづく思う。玉葱ほどセンチメンタルな野菜は存在しない。
 涙が先か、感傷が先かなんて事は、卵と鶏の論争に似ていてあまり意味が、ない。だれだって玉葱を刻めば涙が流れるし、そのうちには気分まで腐って舌打ちのひとつもしたくなる。
 わたしは、包丁を使いながら、頬に伝うものを拭った。
 そして舌打ちをひとつ。

 読み終える。思わずため息をついてしまった。なかなか後味の悪い、感傷的な気分にさせる物語であった。小説自体は短く30分ほどで読めてしまう。学生の頃に仲間内で起きたちょっとした事件を大人になってから改めて解決しようとするという形の物語なので、派手な殺人事件も立ち回りもないが、視点の転換とそれを使ったちょっとした読者向けの仕掛けがあり、味わい深い。そしてやはり「玉葱」が重要な鍵を握っている。が、どうやら作品の中のカレーはスパイスから作ったカレーでは無いようだ。なんだかちょっと意外である。

 連作短編集の一作なので、この『アリバイ レシピ』だけでも楽しめるが、『メイン・ディッシュ』は通して読むとその「連作短編集」という構成自体がひとつのトリックになっており(ネタバレか?)、とにかく感心させられる。
 これを機に久しぶりに通して読み返してみようかな。

メイン・ディッシュ (集英社文庫)

メイン・ディッシュ (集英社文庫)