読書録 地方生活の日々と読書

趣味が読書と言えるようになりたい。

MENU

やっぱりミステリは面白い『カササギ殺人事件』(アンソニー・ホロヴィッツ著)【読書感想】

今週のお題「2019年買ってよかったもの」

 今村昌弘著『屍人荘の殺人』に引き続き「今更かよ」と言われそうな本を買って読んだ。アンソニーホロヴィッツ著『カササギ殺人事件』である。昨年末、国内ミステリ界隈で話題を攫っていたのが『屍人荘の殺人』だが、海外ミステリ部門の話題作といえば本作『カササギ殺人事件』であった。各所から出ている海外ミステリランキングの1位を総ナメしたらしい。本屋さんの文庫コーナーで赤と青の表紙の2冊組を見たことがある人も多かろうと思う。
 ずっと気になっており、そのうち読もうとは思っていた。先日、東京へ出張へ出ることがあり、行き帰りに読むために電子書籍で購入した。
 読みだしたら止まらなかった。仕事のことで少し気が重かったのだが、そんな憂鬱な気分はいっぺんに吹き飛んだ。有無を言わさず読者を物語を引き込む強さを持った素晴らしいミステリである。読みながらやっぱりミステリはいいなとしみじみと思った。

一作で二作分のミステリを堪能できる『カササギ殺人事件』を読む。

 この『カササギ殺人事件』は、伝統的なフーダニットである。と同時にとても変わった小説でもある。
 それはこの小説が、長大な作中作を孕んでいるという構成だからである。物語の語り手はミステリ大好きなミステリ編集者スーザンである。彼女が編集者として人気ミステリ作家アラン・コンウェイの未発表原稿を読むところからこの物語は始まる。この未発表原稿の名前が『カササギ殺人事件』である。作中作の作品名がそのまま本の題名になっているということは時々あるが、この作品のすごいところは作中作がそのまま一遍のミステリ小説となっているというところだ。創元推理文庫では上下2冊組だが、その上巻がそのままほぼすべて、作中作に充てられているのだ。しかもこの作中作ミステリ『カササギ殺人事件』がものすごく面白い。
 50年代のイギリスの田舎の村で殺人事件が起こる。殺されたのはマナーハウスの掃除婦と領主。容疑者は彼らの周囲の村人たち。そこに現れるのが、名探偵アティカス・ピュントとその助手ジェイムズ・フレイザー
 そんなミステリ好きならどこかで読んだことがあるような舞台で繰り広げられる推理劇に、ページを繰る手が止まらない。作中作単体でも十分に面白いのだ。

 しかしこの小説の面白さは作中作だけに留まらない。作中作が書かれた世界では、語り手スーザンがとある事件に巻き込まれていた。その事件はどうやら作中作『カササギ殺人事件』とこの小説が書かれた背景に原因があるらしい。ミステリ編集者であり、良き読者として、本の中の探偵たちと共に数々の事件を解決してきたスーザンは、現実の事件で真実を見つけることが出来るのか。下巻では彼女が悪戦苦闘しながら事件解決に挑んでいく。そう、決して彼女は「名探偵」ではない。だから彼女は泥臭く、少しずつ真実のかけらを集めていく。例えば、下巻にも複数の作中作や手紙が出てくる。被害者の遺書、被害者の姉の回想録、出版されなかった小説、出版された小説。これらは最後の最後にすべてが繋がり、事件の背景がはっきりと目の前に立ち現れる。

 ミステリらしいミステリである。多分著者のアンソニーホロヴィッツさんは心からミステリが好きなのだろうと思う。著者はスーザンにミステリの魅力をこう語らせる。

 雨の日、部屋を温めて、ただひたすら本に没頭するあの幸福。読んで、読んで、指の下をページがするすると流れていき、ふと気がつくと、左手のページのほうが右より少なくなっている。もっと速度を落とさなくてはと思うのに、結末がどうなるのか早く知りたくて、ひたすら先を急いでしまうのだ。読者をこうしてぐいぐい引きこんでいくミステリとは、小説という多種多様で豪華な形式の中でも、ひときわ特別な位置にあるのではないだろうか。それは何より探偵役が、ほかのどんな登場人物よりも、ほかに類のない形で読者と結びつくことができる存在だからなのだ。

 ミステリ以外はどんな小説であれ、わたしたちは主人公のすぐ後ろを追いかけていく--それがスパイでも、兵士でも、恋する若者でも、冒険家でも。いっぽう、探偵とは、わたしたちは肩を並べて立っている。そもそもの最初から、読者と探偵とは同じ目的を追いかけているのだ--それも、ごく単純な目的を。わたしたちはただ、本当は何があったのかを知りたいだけであり、読者と探偵のどちらも、けっして金のために真実を求めているわけではない。

 私もミステリが好きだ。この本を読み改めて思った。もっともっと、探偵たちと共に、真実を見つけていきたい。
 ミステリ沼の魅惑の味をしっかりと味わうことが出来る『カササギ殺人事件』。売れているからという理由で読まず嫌いせず、思い切って買って読んで良かったと心から思う。

 

 ↑上巻を読み終わったら、すぐに下巻を読みたくなるように出来ているので、まとめて買って正解だった。そして下巻を読み終わると、すべての素晴らしい小説がそうであるように、すぐにまた上巻を読みたくなる作品である。