読書録 本読みの貪欲

地方在住三十路女の読書日記。趣味が読書と言えるようになりたい。本のほかには犬と魚が好き。

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2020年に観る『シン・ゴジラ』(庵野秀明監督)。【映画感想】

 Amazonプライムビデオで映画『シン・ゴジラ』を見ました。家にDVDもあるので、今回で3回目か4回目かの視聴でした。初めて見たときは、「普通に面白いな」くらいの感想だったのだけれども、二回三回と回数を重ねるたびに面白くなっていく気がする。私はこの映画が好きだ。特にここ最近の新型コロナウイルスによる全世界的な非常事態を背景に、今回の鑑賞はより一層面白く感じた。

シン・ゴジラ』をみる

 ご存じのとおり、シン・ゴジラは2016年に公開された庵野秀明監督・脚本による怪獣映画である。私は怪獣映画ファンではないし(幼いころにモスラが出てきた映画を見たことがあるくらいだ)、特撮ファンでもない。エヴァンゲリオンも未履修だ。それでもこの映画を楽しめたのは、この映画が「怪獣映画」というジャンルを超えて、普遍的なものを描いているからだと思う。この映画が描いているのは、組織の中の人間である。つまり私たち社会人を描いているのだ。この映画は「職業映画」「お仕事映画」なのである。
 この映画の主人公矢口はお役人であり、決してヒーローではない。官僚という組織のなかの、ただの1つの歯車に過ぎない。主人公だけではない。登場人物たちは皆、「働く人」としてこの映画に登場する。物語は主人公の背中を追ってはいるが、彼の過去や思想にフォーカスする事はなく、あくまで彼が危機の前でどのように行動したのかというところを追っていく。個人の内面に深入りしない。これは映画としても結構珍しいのではないだろうか。

 そしてゴジラである。ゴジラは様々なメタファーとして見ることができるだろう。しかし映画の中の登場人物たちにとってゴジラは、降って湧いてきた災害に過ぎない。もちろん人災という側面もあるのだろうが(ゴジラは海洋投棄された放射性物質により成長した)、この映画では人類の自業自得という側面は強調されていないように思う。未知の自然災害という形で扱われている。だからこそ私は、今回この映画を見ながら自然と、ゴジラコロナウイルスを重ねていた。目に見える災厄であるゴジラと、見えないウイルスとでは、危機の形もその対処法も、全くもって違う。けれども人類が直面したことのない危機という点では、ゴジラコロナウイルスも同じである。人類は感染症の流行に何度も直面してきたが、それでも21世紀、グローバル経済が支配した社会における全世界な感染症の流行というのは、人類始まって以来はじめてのことであるだろう。

ゴジラという未知に直面した人類

 この映画は、未知の危機対人間社会の様子を描いている。その目線でこの映画をみると、すごくリアルである。
 この映画の大部分は仕事に励む官僚や政治家たちのシーンで構成されている。私は実際の官僚の仕事の様子をもちろん知らないので、この映画で描かれた風景がどこまで現実に即しているのかは分からない。それでもすごくリアルに感じたのは、映画で描かれている組織や社会の在り方が、私の接している社会とどこか似ているからである。明確な方針が出るまでの右往左往、会議のための会議、組織間の縦割り、人事の在り方。容易に想像できてしまう。
 私の好きなシーンのひとつは、ゴジラの一度目の上陸の翌朝の町の様子を描いたところである。ゴジラ上陸の翌朝、町は普段通り動き始めた。あるものは仕事へ行き、あるものは学校へ行き。ゴジラの進行路に位置していた不幸なる少数の人々が多大なる被害をうけ、それ以外の人はいつも通りの日常を送る。「あるある」と思った。

働く人間が主役の映画

 映画はそんな「あるある」だけでは終わらない。
 未知の災害を自分事として受け止め、働く大人たちをこの映画は描き出す。ゴジラから町を守るべく、多くの無名の人たちが自らの仕事に取り組む。仮説を立て、与えられたデータを分析し、行動計画を立て、実行する。自らの手に余る事態であれば、頭を下げて、協力をお願いする。言うのは簡単だが、実際に行うのは難しい。自らの人生を振り返れば、それがどれだけ困難なことか分かるだろう。しかし、決して特別なことではない。対ゴジラ戦において、主人公である矢口は直接的にゴジラを攻撃したわけではない。自らの権限の中で、利害を調整し、いくつかの意思決定をしただけである。しかし彼が行ったような、ちょっとした「だけ」の仕事が重なって、人類は未知の危機であるゴジラを倒すに至るのだ。
 この映画の魅力は、普通のアクション映画では後方にされがちな、たくさんの裏方の人たちに焦点を当てているところだ、と改めて思った。私は、一瞬だけ映る、民間の化学プラントとそこで働く人のカットがとても好きである。普通の人が、普通の仕事の延長線上で、自らが出来る対ゴジラ戦を戦っている様子が感じられてとても良いと思う。また今回鑑賞し良かったと思ったのは、どうしても薬品の納期が間に合わないと判明し報告を受けたシーンで、部下を詰めたり精神論でどうにかするのではなくて、トップが他国に頭を下げるという様子を描いたことである。これも簡単だけど、なかなか出来ないことだ。

 現実に戻ると、私たちは今、新型コロナウイルスの全世界的な流行という未知の事態に直面している。そして、その最前線で働いている人、人目につかずとも社会を支えるために働いている人がいる。
 医療職でも、重要なインフラを担っているわけでもない私に出来ることは何もない。私は私にできる感染症対策、手を洗う、外に出ることを極力減らす、体温を測り行動記録をつけるといったことを地道に行っていくしかない。不甲斐ない。一刻も早く、この流行が収束することを願う。

シン・ゴジラ

シン・ゴジラ

  • 発売日: 2017/03/22
  • メディア: Prime Video