読書録 本読みの貪欲

地方在住三十路女の読書日記。趣味が読書と言えるようになりたい。本のほかには犬と魚が好き。

MENU

『死刑にいたる病』櫛木理宇著【読書感想】

 SFでも買うかと寄った本屋で見つけた一冊。早川書房の文庫棚で、SF小説たちに挟まれて売られていた。早川文庫の例に漏れず、普通の文庫本よりもほんの少しだけ、背が高い。
 櫛木理宇さんの小説を読むのはこの『死刑にいたる病』が初めてである。表紙の裏の著者紹介によると、どうやらホラー小説出身の作家さんのようだ。道理で私に馴染みのないはずだ。怖いのは苦手なので、手に取ることはほとんどない。ホラーは私にとって未知の読書分野だ。この本は、裏表紙のあらすじを読む限りホラーではなさっそうだったし、その紹介文はとても魅力的であった。

 鬱屈した日々を送る大学生、筧井雅也に届いた一通の手紙。それは稀代の連続殺人鬼・榛村大和からのものだった。「罪は認めるが、最後の一件だけは冤罪だ。それを証明してくれないか?」パン屋の元店主にして自分のよき理解者だった大和に頼まれ、事件を再調査する雅也。その人生に潜む負の連鎖を知るうち、雅也はなぜか大和に魅せられていく。一つ一つの選択が明らかにする残酷な真実とは。

 一昼夜(正確には一夜昼)にて読了。一気に読んでしまった。面白かった。ホラー的な怖さはなかったが、被害者の描写はなかなかにグロテスクだった。年を重ねるごとに残酷描写に弱くなっていっている気がする。
 本書はシリアルキラーを題材としているので、結構しっかりと被害者が残酷に暴力を振るわれたり殺されたりしている描写があるのだけれど(いや、もしかしたら、ホラー界では軽いほうなのかもしれないけれども)、その辺りは流し読みしてしまった。本書は暴力描写で読者を怖がらせるタイプの小説ではない。こんなに残酷に書かなくてもいいじゃないかと思わなくもないが、しかし、この暴力描写が、その犯人である榛村大和という男の奇妙さを読者に強く印象付けるのも確かである。

『死刑にいたる病』を読む。

 本書は一人の連続殺人鬼を中心に物語が回っていく。ハイティーンの少年少女24人の殺人容疑で逮捕され、そのうちの9件で立件され、一審で死刑が宣告されている男として、榛村は読者の前に現れる。その残酷な手口(榛村は被害者を監禁し、虐待し、そして殺した)とは裏腹に、彼はとても魅力的な男であった。

繊細な顔立ちだった。カウンターの上で組んだ長い指も、ピアニストか芸術家のように美しかった。細い鼻梁、長い睫毛。鳶色の瞳がガラスのように澄んでいる。もし彼の経歴を知らず、かつこんな場所で出会ったのでなかったら、「俳優ばりの、上品な美男子」だと感じたに違いなかった。

 その繊細で優しげな様子、パン屋の店主として真摯に商売に励む様子、魅力的な隣人としての顔と監禁拷問殺人犯としての顔との間にあるギャップ。この大きな振れ幅を内に秘めた榛村という人格が、この物語の大きな謎となっている。
 主人公筧井雅也が、この魅力あふれる殺人鬼の生い立ちを追い、真実を探るというのが物語の骨子となる。過去を知る人たちに聞き込み行い、彼が何をしてきたのかを探っていく。サイコサスペンス、とでもいうジャンルになるのだろうか。また主人公雅也は、殺人鬼榛村の過去を追ううちに、自らの過去に秘められた謎に直面することになる。
 謎が少しずつ明かされていく過程を追うという、いわゆるサスペンス的な面白さが十分に楽しめる物語であった。しかしそれだけでは終わらない。物語の終わりに、180度の世界の見方が変わるような大きな仕掛け、コペルニクス的転換がこの小説には秘められている。残酷な人間はどこまでも残酷だな、と思った。

 そして物語は不穏な明るさを伴って幕を閉じる。

残酷な選択、残酷な成長

 この物語においてキーとなっているのは「選択」である。殺人鬼である榛村は被害者たちにどのような「選択」を与えたのか、そしてその「選択」の結果は被害者たちにどのような結果を与えたのか。物語の大部分は三人称で書かれているのだが、各章の終わりに一人称で書かれた文章が挿入されている。彼彼女らは自らの「選択」を前に途方に暮れている。その小文が物語の本流の中で、どこにつながっていくのだろうか、と思いながら読者はページをめくることになる。
 もう一つ、この物語の読みどころをあげるとすれば、ダメダメな大学生であった筧井雅也が、物語を通して「成長」していく姿であろう。この主人公である大学生、冒頭部分では本当に嫌な奴なので。自分以外のすべての同級生を見下し、友達も居ず、だからといって勉強もできず、それどころか同級生とまともに話もできないという体たらくである。その雅也だが、榛村と出会い、彼の事件を追ううちに、少しずつ自信を取り戻していく。しかしもちろん、ただの成長譚では終わらない。彼の「成長」もまた、先に述べた物語最終部でのコペルニクス的転換の伏線となっているのだった。

 それにしても久しぶりに現代日本を舞台にしたエンタメ小説を読んだ気がする。久しぶりに読むと、本書は初読だけれども、どこか懐かしい気持ちになった。中高生のころは、ミステリのほかは、現代日本を舞台にした日本人作家によるエンタメ小説ばっかり読んでいたなあと思う。

2020年8月30日追記

 ところで映画化するらしいですね。どんな映画になるのでしょうか。

死刑にいたる病 (ハヤカワ文庫JA)

死刑にいたる病 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者:櫛木理宇
  • 発売日: 2017/10/19
  • メディア: 文庫