読書録 地方生活の日々と読書

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『PSYCHO-PASS』にはまった話。あるいはディストピアSFとしての『PSYCHO-PASS』の魅力

 最近ブログの更新をしていない。ブログを書かずに何をしていたのかというと、2012年発表のアニメPSYCHO-PASSにはまっていた。2020年に最新の映画が公開されているとはいえ、今更感がすごい。
 きっかけはゴールデンウィークに時間を持て余していたことだった。Amazonプライムビデオに並んでいたそれを、何気なく見てしまった。それで、落ちた。3日で1期3クールを見てしまった。
 私はあまり、ひとつの作品にはまるということはない。ひとつの作品にはまらず、いろいろな作品を雑食的に消費するタイプだ。だからこそ、読書ブログなんかをやっている。しかし30歳目前にして、10数年ぶりに一つの作品に「はまる」という体験をしてしまった。アニメの続編を見て、アニメのノベライズを買い、スピンオフの小説や漫画を読みこんだ。ファンアートを見るためにピクシブのアカウントまで作ってしまった。ああ、これが沼にはまるということか。
 自分でも驚いている。
 『PSYCHO-PASS』、何がこんなにも魅力なのだろう。

PSYCHO-PASS』の魅力とは?

 まず特筆すべきはアニメ1期の完成度の高さだろう。私はアニメのことはよく知らないが、それでもストーリー・絵・世界観それらが高度に組み合わさってこのアニメが出来ていることは分かる。特に1期は、2期以降や映画化を考えずに、作られていたのではないかと思う。『PSCHO-PASS』はアニメオリジナル作品であり原作などがない。そのため一期で完結するのにためのストーリーとなっているのだ。いくらでも掘り下げられる設定を、これでもかと1期2クールに詰め込み、そして使い捨てている。出し惜しみしていない。だからこそ、その物語は残酷なものとなっている。容赦がない。深夜アニメということもあるのだろう。半端な小説なんかよりもよっぽど登場人物たちに容赦がない。どんどん人が死んでいく。その容赦のなさに、飲み込まれた。 

 そして『PSYCHO-PASS』といえば、その世界観である。『PSCHO-PASS』は100年後の日本、しかも、世界で唯一都市として残った国としての日本を舞台にしたサスペンスアニメである。日本以外の国は戦争や内戦によって荒廃の一途をたどり、シビュラシステムという人工知能による独裁制をとった日本だけが都市をして機能している(日本はエネルギー問題をメタンハイドレードで、食糧問題をハイパーオーツという万能穀物で解決している)。そこでの人生は、就職も結婚もシステムによる適性判断により決められている。そして精神状態は「色相」と「犯罪係数」という形で可視化されている。人々は「色相」のクリアさを保つためにストレスケアに励み、「犯罪係数」が規定値を超えた人間は隔離施設に強制隔離されるか、社会に不必要として抹殺される。刑事である主人公たちはドミネーターという銃器を持ち、犯罪係数が高い「潜在犯」に対し即時求刑・即時処刑をしていく。フィリップ・K・ディック的な世界である。制作陣もそのことは十分意識しているらしく、アニメには『電気羊はアンドロイドの夢を見るか』が出てくるし、スピンオフ小説では『マイノリティ・レポート』への言及がある。
 まず、この世界観にやられた。私はディストピアSFが大好きである。
 SFとしてはディストピアものなんて使い古されているのでは、と思うかもしれない。
 確かに設定だけみれば、『PYCHO-PASS』の世界観は目新しくはない。しかし特筆すべきは、この世界が「近未来」であることだ。この「PYCHO-PASS」の世界では、社会システムであるシビュラが確立されてから数十年しか経っていない。いわば「移行期」の物語なのである。完成されていない、完璧ではないシステムが支配した世界を舞台にしている。これが他の管理社会型ディストピア物語とは一線を画すエッセンスとなっていると思う。
 ところで確立されたばかりのディストピア管理社会を書いた小説といえば侍女の物語』(マーガレット・アトウッド著)ですね。『侍女の物語』も主人公が自由な世界を知っているからこその面白さがある。
 『PSYCHO-PASS』にも、「犯罪係数」が導入される以前の時代を知る人物が出てくる。それが物語に深みを与えている。そしてスピンオフ小説ではさらにその管理社会の形成過程に焦点を当てており、世界観のさらなる深化がされている。
 特にこのスピンオフ小説『PYCHO-PASS GENESIS』全4巻(吉上亮著)は、SFマガジンに連載されていた本格的なSF小説であり、アニメのノベライズとは一線を画すものとなっている。特に『PYCHO-PASS GENESIS3』『4』には、アニメの登場人物はほとんど登場しない(登場するのも端役の敵役のみ)という徹底ぶりであり、「キャラクター」ではなく「社会システム」を書くことに特化している。
 そして『PYCHO-PASS』の世界では、この管理システムが「絶対的な悪」としては決して描かれていない。システムはあくまで人間が作り上げたものとして描かれている。共存すべきものであり、改良すべきものであるが、決して壊していいものではない。しかし、個人としては、決して受け入れられるものではない。登場人物たちのシステムの向き合い方もさまざまであり、そのそれぞれの葛藤が物語となっている。システムを作り上げたもの、システムに身を捧げたもの、システムを守るもの、システムに抵抗するもの、システムから逃げるもの。人生がシステムによって決められる社会において、それぞれが苦悩し、道を選択していく。

 とはいえ、私はアニメ1期1クール目の「刑事もの」としての色が強いところや、アニメでは脇役であったキャラクターたちに焦点を当てた短編小説集『PYCHO-PASS ASYLUM』や主人公の過去を描いた漫画『監視官 狡噛慎也も大好きだ。どちらもこの一か月に二回は読んだ。

 とにかくアニメも漫画も小説も面白くてかっこいいのが『PYCHO-PASS』なのである。もし未視聴の方がいれば、観てみてほしい。ただしちょっとグロい表現はあるので、苦手な方は注意。小説も拷問や虐殺シーンがあったりと、なかなかえぐいです。でも、それ以上に面白いので、ぜひ。

 

あえて一人、好きなキャラクターを挙げてと言われたら、『PYCHO-PASS GENESIS 3』『4』の主人公、真守滄かもしれない。『GENESIS』は『1』『2』と『3』『4』で、それぞれ長編の物語となっています。