本屋で目が覚めた話
目が覚めるような、という形容がある。
昨夜、帰宅途中に本屋へ寄った。実用書を買うためだ。
よく行く近所の本屋である。棚の位置は把握している。だからといって目的の棚へ一目散というわけではない。
新刊棚から文庫棚を巡り、ハードカバーの棚を覗く。いつもの巡回コースである。ハードカバー棚の一部に詩集の置いてある場所がある。巡回コースの終点でもある。
と、そこで目が覚めるような発見をした。
いや、実験明けで眠かった目が、本当に一気に覚めた。内側から溢れだす知的好奇心と物欲。
林芙美子の全集未収録詩集である。
『ピッサンリ』(思潮社/野田敦子編)
林芙美子は大学に入ってから好きになった作家の一人だ。
『花の命は短くて~』という句は口ずさみやすいので、気分が良いときについ口に出してしまう。
『蒼馬を見たり』も故郷を離れた身によく染みる。
というわけで、ものすごく欲しくなったのです。詩集は所有欲を揺さぶり起こす。
で、思わず手にとる。
丁寧な造りにますます欲しくなる。
だから、裏返す。そこにはバーコードと2730円の文字。
本への投資は惜しまない、と思えるような人間になりたいと常々思っている。
常々思っているのは、思うだけで実行できない人間だからだ。
2730円、500円の文庫だと5冊分は買える。
47歳で急逝した林芙美子の、短く激しい人生を思いつつ、そっと本を本棚に戻した。
ちなみにピッサンリとは、フランス語でタンポポの意だそう。