日本の物語
以前から気になっていた本を手に取った。宇佐見りん著『くるまの娘』。表紙の絵は、メリーゴーランドと顔のない女子高生。題名と合わさってどこか不穏な雰囲気をまとう一冊だ。 宇佐見りんさんの本を読むのは、芥川賞受賞作の『推し、燃ゆ』に続き2作目。『…
小川哲さんの短編集『嘘と正典』を読んだ。 著者の名前は以前から知っており、いずれ読みたいなと思っていたが、ついつい先延ばしにしていた。今年のはじめ、著者が長編『地図と拳』で第168回の直木賞を受賞されたと聞いて、ようやく購入したのが本書である…
私たちは生きているのか? この問いに、特に悩まずにイエスと答えられる私は幸せである。思考と肉体はイコールであり、肉体の死はすなわち人格の死である。肉体の死の定義は確かに微妙な点はあるが、しかし、それでも分かりやすい世界に住んでいる。 さて。…
北森鴻さんの長編ミステリ『冥府神の産声』を読みました。 初読は小学六年生か中学一年生のときだった。「冥府神」と書いて「アヌビス」と読むのがカッコいいという、中二病的感性から手に取った一冊。初めて読んだときは、難しい話だなと思った。挫折したと…
何度かこのブログにも書いている気がするが、北森鴻というミステリ作家の物語が好きである。初めて北森鴻さんの物語を読んだのは小学六年生のときなので、彼の物語とはかれこれ二十年弱の付き合いである(ちなみに初読は、ミステリアンソロジーに収録されて…
15年ぶりぐらいの再読。森博嗣さんの『女王の百年密室』。我が家には何故か単行本と文庫本の両方がある(『女王の百年睡魔』も二冊ある。『赤目姫の潮解』は単行本だけ。文庫版解説はブログ「基本読書」の方が執筆されているので、文庫でも欲しい気がする…
この国に隠された、異形の想像力。 ”世界で最もSFを愛する作家”が 編んだ渾身のアンソロジー 心惹かれるキャッチコピーと共に、この夏発売されたのが、ハヤカワ文庫より出ている伴名練編『日本SFの臨界点[恋愛篇]死んだ恋人からの手紙』と『[怪奇篇]ちま…
小川一水さんによるSF短編集『アリスマ王が愛した魔物』を読んだ。著者の小川一水の名前は長編SFシリーズ「天冥の標」により知った。シリーズが完結した当時、よくインターネットで名前が挙がっているのを見たものだった。このシリーズが面白いと評判なので…
先の4連休は本を読んで過ごしていた。今年の自主課題図書であるトルストイの『アンナ・カレーニナ』と4連休前に買ったばかりのSFアンソロジー『日本SFの臨界点』(恋愛篇・怪奇篇)を併読しつつ、合間の気分転換にミステリやら新書やら(『ペスト大流行:…
珍しく文芸誌を買った。河出書房新社の『文藝 2020年秋号』である。河出書房新書のTwitterをフォローしており、そこで今号の特集「覚醒するシスターフッド」を知り興味を持った。「シスターフッド」という言葉は初めて知ったが、惹かれるものがあり買ってし…
『感情教育』、といってもフローベールの著書ではない。中山可穂さんの長編小説で、野間文芸新人賞候補作にあがっていた物語である。 女性同士の恋愛をテーマにした小説という前情報を知り手に取った。少し前に読んだ『キャロル』(パトリシア・ハイスミス著…
『非常出口の音楽』という掌編集を読んだ。著者は古川日出男さん。古川日出男さんの掌編集といえば『gift』である。あとがきにも書いてあるが、本書は『gift Ⅱ』ともいえるような一冊である。 古川日出男さんの掌編、ショートショートは独特だ。私の中でショ…
先週末に読了したアメリカ発の恋愛小説『キャロル』(パトリシア・ハイスミス著)の反動で、昔の日本の恋愛小説を読みたくなった。そこで出てきた作家の名前が谷崎潤一郎。だいぶ前に『卍』の読書感想をブログにあげたことがある。調べてみると、多くの作品が…
パトリシア・ハイスミスの『キャロル』を読んでいる。 ご存じ女性同士の恋愛を描いた切ない物語なのだが、結構な序盤から悲劇の予感が満ち満ちていて辛くなってしまい(だって、主人公である19歳のテレーズのキャロルに対する純度100%の恋愛感情が、擦れた…
世界には物語があふれている。読みたい本は尽きることがない。過去の名作はいくらでもあるし、毎月のようにベストセラーは生まれ続ける。それらをすべて読むことは不可能である。私は本が好きだが、別に速読家ではないし、すべての時間を読書に費やせるわけ…
SFでも買うかと寄った本屋で見つけた一冊。早川書房の文庫棚で、SF小説たちに挟まれて売られていた。早川文庫の例に漏れず、普通の文庫本よりもほんの少しだけ、背が高い。 櫛木理宇さんの小説を読むのはこの『死刑にいたる病』が初めてである。表紙の裏の著…
戦中戦後の日常であった「闇市」をテーマにしたアンソロジーを新潮文庫で見つけた。編者のマイク・モラスキーさんは、本の紹介によると早稲田大学国際教養学部教授で、日本の戦後文学やジャズ音楽がご専門という。このアンソロジーの特徴は選書にある。冒頭…
パンクでトリッキーな小説を読みたい。そんな欲求に突き動かされて向かった本屋さんで出会った一冊。手のひらに軽く収まってしまうほどの、薄めの文庫本。表紙にはクマのぬいぐるみ?が描かれた黄色い皿に、ケーキが乗っているというよく分からない写真。「…
ロストジェネレーション世代の作家が書いた、ロストジェネレーション世代の男を主人公とした小説『ロス男』(平岡陽明著)を読んだ。 生まれ落ちた世代で規定されてしまうほど、人生というものは単純ではない。「ロストジェネレーション世代」と一言で言って…
さて2019年も末である。この期に及んで私は『屍人荘の殺人』(今村昌弘著)をこのブログを読む方に勧めようとしている。本好きの方なら何を今更と思うだろう。『屍人荘の殺人』世に出たのは2017年の秋のことである。既読の方も多いだろう。 その頃の私は、し…
夜になると、太陽は輝くのです。 ぎらぎらと白く燃え、すさまじいエネルギーを放ち、あたしを、あなたを、灼きつくすのです。 見せてあげましょう。あたしと一緒にいらっしゃい。 (表題作『夜のアポロン』より) 初めて読んだ皆川博子さんの小説は『開かせ…
久しぶりのブログ更新である。 ブログも更新せず、それどころか読書もせずに何をしていたのかといえば、スパイスからカレーを作っていた。何を思ったのか味音痴のくせにスパイスをまとめ買いしてしまい、それらを有効利用すべくスパイスやカレー関係のレシピ…
不幸になってしまえばいいのに、主人公たちに対し、そんな風に思いながら読んでいる自分に気づいて驚いた。 久しぶりに村上春樹さんの小説を読んだ。中長編小説『国境の南、太陽の西』。実はタイトルだけを見て、紀行文かと思い込み衝動買いしたのであった。…
この3連休は、本を読むか、漫画を読むか、本棚を整理するかしているうちに終わってしまった。 ある本を少し読んでは別の本を手にするという、集中力のない読書であった。そんな中でも読み切ったのが、北森鴻さんの『桜宵』である。香菜里屋シリーズの第2作目…
村田沙耶香著『消滅世界』を読んだ。何が消滅した世界の小説なのか。帯にはこうある。 世界から家族、セックス、結婚…が消える 舞台は人工授精技術が進み、セックスではなく人工授精技術で子供を生むことが普通になった、パラレルワールドな日本(近未来の日…
ある日、米澤穂信『満願』を原作とするドラマの宣伝を見た。そういえばこの本を持っていたな、長編ミステリかと思っていたが短編集だったのか、と思った。せっかくなので積読山から単行本を探し出し、開いてみる。6つの短編が収められており、ドラマ化した…
最近、森博嗣のWシリーズを履修している。2018年も半分が終わろうとしているが、今年の読書目標「SFを読む」が、ぜんぜん達成出来ていないので、読みやすいしいずれは読むことになると思われる森博嗣の講談社タイガ文庫を、梅雨の合間の晴れた日曜日に引きこ…
ある日の仕事中、本を買おうと思い立った。ストレスがたまっていた。ストレスの溜まると本屋に行きたくなる。 ストレスというのは仕事だけが原因では無いことは、薄々わかっていた。人生に対する不全感。あーなんでこうなるんだろうなぁ自分の人生。何がやり…
小説をテーマにした小説を読んだ。佐藤友哉『1000の小説とバックベアード』。 著者、佐藤友哉の本を読むのは初めてだったが、これが面白かった。一気読み。昨日は台風が来るとのことで、引きこもって本を読んでいたのだが、おかげで退屈することなく一日を過…
読みたい読みたいと思っていた本をついに購入。単行本の小説を買うのは久しぶりだ。 第155回芥川賞受賞作、村田沙耶香『コンビニ人間』。帯にはこうある。 36歳未婚女性、古倉恵子。 大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目。これまで彼氏なし。 こ…