とにかく自由で面白い小説『不滅』(ミラン・クンデラ著)【読書感想】
読み終えた瞬間、頭からもう一度読みたい欲に駆られる本がある。
ミラン・クンデラの『不滅』。
これ、すごい。生涯手放さない本リストに追加した。
ちょっとした不注意で、本の地をボールペンで汚してしまって大変後悔している。
面白い本に出会うと、その面白さを誰かに話したくなる。
リアルに話せる友達がいないのでブログに書いているのである。
だから私はこの『不滅』の凄さをここで語りたいのだが、しかし、この物語の良さを伝えられる気がしない。
本を読んだ≠本を理解した
私はこの本を確かに読んだ。でも、すべてを理解できたわけではない。
特殊な構成。
各章が内包する意味。
繰り返される主題。
「不滅」とは何か。
まだまだ私が解かなければならない謎がこの物語には散りばめられており、だから、私は読み終わってまだ一晩しかたっていないのにも関わらず、また読みたいと欲している。
だからといって難しい本ではない。
アニュスという名の一人の女性が主人公である。舞台はフランス。
大きな事件が起こるわけではない。彼女や彼女に関わる人々の人生が様々な角度から語られる。
それは特定の目的、起承転結の結あるいは大団円に向かうようなストーリーとは一線を画している。
章ごとに時間も語り口も飛躍し、さらに唐突にエピソードが挿入される。
第二部の主人公はあのゲーテである。代わりに小説全体の主人公アニュスは出てこない。
そして第二部以降、ゲーテは後景に下がってしまう(第四部でゲーテが死後の世界でヘミングウェイと会話したりはする)
七部構成だが、はじめの二部ぐらいまでは普通の小説だと、油断して読んでいた。
が、読み進めるうちに小説世界はより自由度を増し、物語としても加速していく。
小説って本当に自由だなと思った。小説内の神である作者=〈私〉が出てきて、物語内の登場人物と話したりもする。そしてこんなことまで言ったりする。
「それで、きみの小説の題はどうなるの?」
「《存在の耐えられない軽さ》だよ」
「でも、その題はもう使われているじゃないか」
「そう、ぼくによってね! しかし、あのときぼくは題をまちがえたんだよ。あれはいま書いている小説のものになるべきだったんだね」
私たちは葡萄酒と鴨の味だけに注意を集中して、しばし沈黙を守った。 (p402)
そんなこと書かれると『存在の耐えられない軽さ』を再読したくなるじゃないか。
個人的には第六部の「文字盤」が好きだ。
この六部、文庫版では453ページから始まるのだが、そこで初めて出てくる男が主人公である。
こいつの人生観がなかなか面白い。
文字盤とは占星術のホロスコープのことで、この章では男の人生を占星術的概念=定められた運命と自らの主題で考察しつつ物語が進んでいく。
ちなみに第六部については小説内の作者によって次のように語られている。
ぼくは第六部を待ちかねているんだ。ぼくの小説には新しい作中人物がひょっと出てくるんだ。そうして、その第六部の終りで、彼は出てきたときと同じように、跡を残さず立ちさってゆくだろうよ。彼はなにごとの原因でもないし、どんな結果もつくりださない。それがまさにぼくの好むところなんだ。第六部は小説のなかのひとつの小説になるだろうし、ぼくがこれまで書いたもっとも悲しいエロティックな物語になるだろうね。 (p402)
7つの部は、さらに3-4ページ毎に区切られているが、第六部の中でも特に「2」は(占星術的概念について書かれた部分である)、自分の中の好きな小説ランキング・章単位部門で2位につきました。