『頑張って生きるのが嫌な人のための本 ゆるく自由に生きるレッスン』海猫沢めろん
魅力的な題名だ。『頑張って生きるのが嫌な人のための本』。再読だが、二回ともこの題名にやられた。自己啓発本だろうと思いつつも思わず手にとってしまう。だって頑張って生きたくないんだもん。そのうえ、頑張って生きたくない、と自覚してしまう真面目さからは逃れられないんだもん。
平凡に生きる勇気
表紙をめくる。前書きを読む。
これは、自由についての本です。 (p1)
自由?
どうして僕がこんな本を書くことになったのか。
きっかけは友人「K」の死です。
ああ、これは大変だ、気を引き締めて読まないと。
著者の10歳近く年の離れた友人「K」は、著者と出会ってから7年後に亡くなってしまう。自殺だった。
Kは閉塞感を抱えて生きていました。
自由になることを望んでいました。
そのために最終的に選んだのが自殺でした。
しかし、自由になるための方法は、本当に自殺しかなかったのでしょうか。 (p3)
自由。抽象的な言葉だ。著者はこの本で、自由について考える。
自由はどこにあるのか。私は自由なのか。自由だったらそれでいいのか。本当に自由になりたいのか。
自由意志についての科学的な考察本も面白いが、この本ではあくまで日常的な自由について考える。そして一つの言葉にたどりつく。それが「平凡な自由」だ。著者は平凡な自由を生きることを薦める。ここでいう「平凡」とは、今までの人生のなかで、もっとも楽しかった時期ともっともつらかった時期の真ん中あたりのことだそう。そんなこと言っても、平凡な自由? そんなもの、どこに売っているのか。
平凡な自由を手に入れるのは案外簡単です。
平凡に生きる勇気を持つことです。 (p52)
「平凡に生きる勇気」。
これまたすごい言葉だ。詩的ですらある。
自分は本当にごく平凡な人生を生きていると思う。つまらない人間であることがコンプレックスである程度には、私の人生も私自身も平凡である。でも、つまらない人間であることがコンプレックスであるということは、心の奥底では「自分は特別だ」と思っているのかもしれない。著者が指摘するように、平凡な人生を生きてしまうことを恐れているのかもしれない。
自分の人生は特別でなければならない? そんなこと、誰が決めたんだ。
本書の後半では、著者は平凡な自由を手に入れるためのちょっとしたコツ、世界の見方などについて語る。「人生を最低限の力でしか生きたくない」という著者の考え方は、ナマケモノで怠惰な私にはなかなかに魅力的だった。
分量も多くなく、語り口も軽く読みやすい本である。現代社会の「意識高い系」な面に馴染めない方は、一読してみるのも良いかもしれない。
まえがき
1章 力を抜いて「平凡な自由」を考える
2章 人とのつながりという「檻」から自由になる
3章 「働きたくない」と思うほど、不自由になる
4章 「後ろ向き」でも生きる強さを
5章 「信じる自由」とは何か?
6章 彼は今、自由か
あとがき