♯私の平成の30冊
Twitterにて「♯私の平成の30冊」なる面白そうなタグを見つけた。せっかくなので自分でも30冊を選んでみた。これがなかなかに難しい。一著者一作品、ノンフィクション系は除外、平成になってからの新訳は選択可というマイルールで30冊を選んだ。選択の基準としては、30年後この記事を自分が読み返したときに「ああ、平成のころはこんな本を読んでいたなあ」と思えるような、個人的な思い入れが強い本(価値観が大きく変わった、新しいジャンルを読むきっかけとなった、読んだ状況が思い出深い等の本)とした。
♯私の平成の30冊
(国内小説 11作)
『とんび』重松清著 2008年
中学生のころ、実家でとっていた新聞に連載されていたのを毎日楽しみに読んでいた。懐かしい。
『赤目四十八瀧心中未遂』車谷長吉著 2001年
もしかすると、私は日本の小説の中でこの本が一番好きかもしれない。もしかすると、だけども。
『ポトスライムの舟』津村記久子著 2009年
主人公の働くことに対する切迫感に驚くほど共感できた一冊。今まで読んできた本のどの登場人物よりも私に近いと感じた。
(国外小説 12作)
『贖罪』イアン・マキューアン著 小山太一訳 2001年
最近読んだ本。21世紀のはじめに書かれた物語だが、21世紀を代表する小説になりそうな予感。
『ザ・ロード』コーマック・マッカーシー著 黒原敏行訳 2008年
衝撃的なディストピア小説。衝撃的でかつ悲哀に満ちた物語。
『不滅』ミラン・クンデラ著 菅野昭正訳 1999年
『存在の耐えられない軽さ』と迷ったが、よりメタな要素が強いこちらで。
『ある島の可能性』ミシェル・ウエルベック著 中村佳子訳 2016年
多彩な物語を紡ぐ作家であるが、SFチックな一冊を。今後も新刊を追っていきたい作家のひとり。
『すばらしき新世界』(新訳)オルダス・ハクスリー著 大森望訳 2017年
電子書籍版で読んだが、紙の本でも置いておきたくて、最近文庫本も買ってしまった。
『白鯨』(新訳)メルヴィル 八木敏雄訳 2004年
上記の『ベルカ、吠えないのか?』を読んだ実習の際に、同じく持っていき読んだ小説。超長編なので読了時は二度と読むことはないだろうと思ったが、現在進行形で再読中。
(詩・エッセイ 6作)
『もの食う人々』辺見庸著 1994年
食べること=生きることを題材にしたエッセイ集。食エッセイなのに癒し要素はない。
『八本脚の蝶』二階堂奥歯著 2006年
自殺された女性編集者が生前に書いていたブログを書籍化したもの。彼女の博識さと美意識と生に対する切実さに、何度読んでも圧倒される。
『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』米原万里著 2001年
ロシア語通訳者である著者がプラハで過ごした小学校時代の旧友の消息をたどるエッセイ。米原万里さんのエッセイはどれも面白いが、内容の重い一冊を。
(番外 1作)
『美味しいマイナー魚介図鑑』ぼうずコンニャク 藤原昌高 2015年
小説ではないが、どうしても押したいので選んだ。見て楽しい、何度も開きたくなる魚図鑑。
以上、30冊。頑張って選んでみたが、見落としている作品がある気がする。
転職しました(1年ぶり2回目)
人生で2度目の転職と読書生活
人生2度目の転職をして1週間が経った。まだ大した仕事はしていないのだけれども、想像以上に疲れ消耗している。職場の雰囲気は良く、先輩方も親切で、とりあえずひと安心した。この職場であれば、長く働けそうだ。採用頂いたからにはしっかりと仕事を覚えて、結果を出していきたい。
という頑張っていきたいという気持ちは強いのだけれども、しかし、毎日気を張り詰めているのか、毎日疲れて帰ってきている。帰ってきて、家事をして、お風呂に入って、眠る。普段通りのはずなのに、それぞれがやたらと億劫である。疲れているはずなのに、寝坊してはいけない通勤時に迷ってしまうといけないと、朝はやたら早く目が醒める。
そして何より、本を読む気にもなれない。転職する直前まで自分でも驚くほど乱読をしていたのだけれども、読書に対する欲求がピタリと止んでしまった。寒い夜は湯船で本を捲るのが日課なのだが、それすらもする気になれない。詩集をぱらぱらと開き、いくつかの詩を拾い読んだくらいである。読みかけの小説もノンフィクションも手元にあるのだけれども、開くことはなかった。
本を読む気が起きない間、ではどんな本だったら読む気になれるだろうかということを考えていた。面白い短編なら読める気がした。ではどんな短編を私は面白く読んできたか。またどんな短編であれば今の気分にぴったりだろうか。本は読めなくとも、過去読んだ本に対する回想・妄想ならできる。自分がもしもアンソロジーを編むとすればどの短編を収録するだろう。その妄想は楽しく、読書を趣味にしてきて良かったと思う。自分の中のベストを選ぶ作業は、読んできた本の蓄積が増えれば増えるほど愉悦が増す。
思考はまとまらずマイベスト短編集は制作途中ということにしたが、その過程で浮かび上がってきた短編のひとつにやたらと惹かれるものを感じた。シャーリイ・ジャクスンの「くじ」という短編である。不条理なルールのある村で行われるくじ引きについて書かれたブラックな短編である。私はこの短編を何かのアンソロジーで読んだ。文春文庫の『厭な物語』だったか。シャーリイ・ジャクスンについての短編はこの1篇しか読んだことがない。他の短編も読んでみたいと思った。ゴシック風味のブラックな短編、疲れた心をリフレッシュさせるには現実から距離を取れる物語が一番だ。
金曜日の夜。とりあえず一週間を過ごせたので、仕事帰りに本屋へ寄った。インターネットで本を買うのは簡単だが、本屋へ行くという行為自体が私にとってはひとつの娯楽である。残念ながらシャーリイ・ジャクスンの本は置いていなかった。手ぶらで帰るのもなんなので、古典新訳文庫『書記バートルビー/漂流船』(メルヴィル)を買った。最近読んだ本(複数)にて『書記バートルビー』が取り上げられており気になっていた。
帰宅後、改めてネット通販で本を買おうかと思い、amazonのページを開いた。そして値段を見る。最近は、本屋で実際の本を手にとる際、文庫本なら値段を気にしないことが多い。しかし液晶画面を通して物をみるときは別だ。サイトは価格に目が行くようなデザインになっているし、実物を前にしたときの高揚感がないせいで、冷静に価格と本を見比べることができるからだ。何冊かあるシャーリー・ディクスンの短編集の値段を確認し、どれも1000円以上することに驚いた。電子書籍も値段はほとんど変わらない。中古もそこそこする。私はクリックするのをやめた。そしてこの文章を書いている。書きながら迷っている。1000円超か……多分、本屋で出会っていたのならば、買っていただろうな……
未来予想図
さてブログのお題は私の未来予想図とのこと。正直、未来はまったく見通せない。学生のころの自分はまったく考えてもいなかった地平に今の私は立っている。そもそも新卒5年以内に2度も転職するなんて、まったく想定していなかった。この5年間で分かったことは、私のように意志薄弱で流されるように生きていると、想像もしなかった場所で生きることになるということだろう。良くも悪くも。しかしこの漂泊するような生き方を、私は決して嫌いではない。それにどこに生きようと、私の側には本がある。それで十分ではないか。
ただもう少し高望みをすれば、好きな本を好きなだけ買えるような人生を生きたい。1000円の文庫本も「働いているんだから買って当然」と思って堂々と買えるような余裕がほしい。
高望みを現実にするには、まずは今の職場に一日でも早く慣れ、働き続けることができるだけの能力を得ることだ。多分来週には、平日の夜にも小説くらい読めるようになっているだろう。頑張っていきたい。
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『人形』(モー・ヘイダー著)【読書感想】
「人形」と書いて「ひとがた」と読むサイコミステリ
早川ポケットミステリーからの一冊。モー・ヘイダー著の『人形』を読了。サイコミステリー。タイトルは「にんぎょう」ではなく、「ひとがた」と読む。原題は「muppet」。辞書で軽く調べてみると、「muppet」は「操り人形」という訳がでてきた。しかしこの本でぴったりなのはやはり「人形」と書いて「ひとがた」だろう、と読了した今は思う。どうしてか。この物語において登場する人形は、殺人事件の被害者たちを象徴した「ひとがた」であったこと。そして「ひとがた」という言葉から発せられるなんとも言えないオドロオドロしい感じ、この感じがこの陰惨なミステリにぴったりであるからだ。これを「ひとがた」とした訳者、北野寿美枝さんのセンスは最高だと思う。
著者モー・ヘイダーの小説を読むのは本書が初めてだった。一気読みできるエンタメ小説が読みたいなと思っていたところ、見つけたのがこの一冊。真っ黒な表紙に、印象的なタイトル。裏表紙にあるあらすじを確認した。「アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)最優秀長編賞に輝いた『喪失』に続き、サスペンスの新女王たる実力を見せつける話題作!」という文句に惹かれた。
この文句の通り、この本はシリーズものの一冊である。本書は6冊目に当たるらしい。が、シリーズの一部は日本語には翻訳されていないとのこと。中学生のときに、「風読人」という海外ミステリの情報サイトを見ては、頑張って英語を勉強していずれは未翻訳ミステリを読みたいと思っていたことを思い出した。残念ながら、英語力も英語を勉強するモチベーションも上がらず、今に至っている。
本書はシリーズの途中作であるが、一冊だけでも問題なく楽しめた。もちろん前作までを読んでいればもっと楽しめたのだろうなと思われる描写も多々あった。むしろ今読んでいる部分は前作までのネタバレに当たるのではないかと無駄にドキドキした。
精神科医療施設の幽霊と殺人鬼
物語の舞台は、イギリスのとある街にある犯罪歴のある患者を収容する重警備精神科医療施設。建物自体は古く、以前は救貧院であったという。度々停電が起こり、そのたびに「何か」が起きている。例えば、患者の不審死。施設に流れる幽霊話。かつてこの救貧院で寮母をしていたザ・モードという残忍な女が、幽霊となって施設を歩き回っているというのである。この精神科医療施設で何が起こっているのか。患者の不審死は自殺として片付けられたが、本当にそうなのだろうか。この施設に務める主人公A・Jは、警察に捜査を依頼した。
物語は複数の視点から語られる。A・Jの、捜査を担当するキャフェリー警部の、そして、とある女性の視点から。一章ごとは短い。しかし彼らの視点は、なかなかに一点に集まらない。どこでどう彼らの物語は交差するのか、あるいはしないのか。
雰囲気は満点である。描写もなかなかにエグい。スプラッタは苦手なので、想像力を働かせないようにして読んだ。スプラッタな場面以外にも、怖いシーンがいくつかある。この著者、煽るのうまいなあ。はじめのうちは物語がなかなか進まず、どうしたものかと思っていたが、気がつけばのめり込んでいた。読めば読むほど、登場人物たちが一筋縄ではいかないまどろっこしい性格をしていることが判明し、物語は混迷していく。嘘をつき嘘をつかれ、誰もが誰かを、あるいは自分自身をかばっている。
犯人は幽霊だった、というオチではもちろんなくて、物語は急展開の末に収束する。やはり一番怖いのは生きている人間である、という常套句的読後感であった。今作の主人公であるA・Jがとてもいい人で、彼には幸せになってほしい。かわいい犬も出てきます。
物語の内容とは関係ないが、イギリスの街のスケール感というか、舞台となっているブリストル市がどのくらいの規模の街なのかが気になって、googleマップを眺めていたら、ブリストル水族館という水族館を見つけてしまった。海洋博物館もあるらしい。行ってみたいなあ。
- 作者: モー・ヘイダー,北野寿美枝
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2016/02/09
- メディア: 新書
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