読書録 地方生活の日々と読書

趣味が読書と言えるようになりたい。

MENU

2019年読書まとめ 読書メーターより

 忘備録として、2019年に読んだ本を読書メーターの記録を使って一覧にした。
 こうして一覧にすると、小説ばかり読んでいたことがよく分かる。


2019年の読書メーター
読んだ本の数:65
読んだページ数:23640
ナイス数:210

悪女について (新潮文庫)悪女について (新潮文庫)感想
数年ぶりに再読。一章が適度な長さで読みやすい。
読了日:01月10日 著者:有吉 佐和子
鋼鉄都市 (ハヤカワ文庫 SF 336)鋼鉄都市 (ハヤカワ文庫 SF 336)感想
かの有名なロボット3原則を基にしたアシモフ先生の長編SF小説。ロボット嫌いの刑事である主人公が、人間そっくりのロボットの相棒と一緒に、殺された宇宙人の謎を解く。未来の地球を舞台にしているが、推理小説のような筋書きである。今でもよくあるSF小説のテーマである、人間とロボットの共存や人間とは何かということが背景にあり、古典的だが面白い。
読了日:01月14日 著者:アイザック・アシモフ
正直書評。正直書評。
読了日:01月20日 著者:豊崎 由美
戦後ゼロ年 東京ブラックホール戦後ゼロ年 東京ブラックホール感想
NHKスペシャル『戦後ゼロ年 東京ブラックホール 1945-1946』の書籍化。知らなかったこと、今まで意識もしていなかったことのオンパレードで、とても興味深かった。以前番組も見たが、もう一度見たい。「戦後の焼け野原」と言った定型句では溢れ落ちてしまう、数多の人々の生の在り様が浮かんでくるような本であった。生きていくということが、綺麗事だけではない時代があったのだ。
読了日:01月23日 著者:貴志 謙介
ウォッチメイカーウォッチメイカー感想
シリーズ第7作目。このシリーズを読むのは、初めてだったのだけれども、問題なく楽しめた。どんでん返しに継ぐどんでん返し。サスペンス小説の楽しさがいっぱい詰まった一冊で、一気読み必須。
読了日:01月28日 著者:ジェフリー ディーヴァー
非正規・単身・アラフォー女性 「失われた世代」の絶望と希望 (光文社新書)非正規・単身・アラフォー女性 「失われた世代」の絶望と希望 (光文社新書)感想
現在アラサーではあるが、他人事とは思えない。自分はまだ運が良かったのだと認識した。
読了日:01月29日 著者:雨宮処凛
タタール人の砂漠 (岩波文庫)タタール人の砂漠 (岩波文庫)感想
人生と時の流れの早さについての小説。
読了日:02月03日 著者:ブッツァーティ
国境の南、太陽の西 (講談社文庫)国境の南、太陽の西 (講談社文庫)感想
村上春樹の中編小説。自分の一部が欠けている気がしている主人公と、その欠けている部分を埋めてくれるような気がする小学校時代の同級生。偶然か必然か、大人になってからの再開と37歳の精神的不倫。
読了日:02月05日 著者:村上 春樹
禁断のレシピ禁断のレシピ感想
圧倒的カロリー、そして、重量感。食べたら美味しいのだろうなと想像しながら楽しむ本。間に挟まれるちょっとしたエッセイが楽しい。
読了日:02月06日 著者:枝元 なほみ,多賀 正子
人形(ひとがた) (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)人形(ひとがた) (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)感想
早川ポケミスの一冊。サスペンス小説なのだけど、怖い。舞台は犯罪歴のある患者を収容する精神医療施設。どこからともなく流れてくる幽霊話。不審な患者の死。そして嘘。誰もが嘘をついている。怖い。けれども俗に言うように、幽霊よりも怖いのは生きている人間である。そんな一冊。
読了日:02月07日 著者:モー・ヘイダー
桜宵 (講談社文庫)桜宵 (講談社文庫)感想
香菜里屋シリーズ2冊目。やっぱり面白い。
読了日:02月10日 著者:北森 鴻
有田川 (講談社文芸文庫)有田川 (講談社文芸文庫)感想
主人公千代の一代記。一人の人間の生涯を追った一代記が好きだが、そのなかでもこの物語は不思議な魅力があり、一気に読了。一方で、学生の頃に読んでたら、この本の魅力に気づかなかったのではないか、とも思った。歳をとってから読むと、また別の魅力が見つかりそうな気もする。長く付き合っていける物語だ。著者の他の本も読んでみたい。
読了日:02月14日 著者:有吉 佐和子
花の下にて春死なむ (講談社文庫)花の下にて春死なむ (講談社文庫)感想
北森鴻さんの香菜里屋シリーズ一作目。再々読だが面白い。ミステリ短編集。
読了日:02月15日 著者:北森 鴻
帰還兵はなぜ自殺するのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)帰還兵はなぜ自殺するのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)感想
戦争にて心を壊されてしまった帰還兵たちのその後に迫ったノンフィクション。兵士本人だけではなく、兵士の家族たちも、やりきれない日常を送っているという現実が胸に迫る。国同士の戦争が終わっても、彼らの戦争は終わらないのだ。
読了日:02月15日 著者:デイヴィッド・フィンケル
アメリカ死にかけ物語アメリカ死にかけ物語感想
昨年より少しずつ読み進めて読了。陽の当たらない場所に生きる人々にスポットを当てたノンフィクション。普段メディアでは取り上げられないアメリカの素顔のひとつが、リアリティを持って立ち上がってくる。今の私には、アメリカという国も、この本も、どのように評価して良いのか分からない。この世には、理想郷などきっとないのだろう。しかし私たちは、この世で生きていかなければならない。
読了日:02月16日 著者:リン・ディン
幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)感想
有名SF小説。地球にやってきたオーバーロードホモ・サピエンスの未来についての物語。
読了日:02月16日 著者:クラーク
歯と爪 (創元推理文庫 163-2)歯と爪 (創元推理文庫 163-2)感想
1955年に書かれたミステリ小説。
読了日:02月17日 著者:ビル S.バリンジャー
引き潮引き潮感想
海洋小説。『宝島』の著者スティーブンソンとその義息である方の書いた物語なので、子供向けなのかなとも思ったが、そんなことなかった。迫り来る危機を勇気と知恵を持って解決するという物語ではなく、登場人物たちの心理と、状況によって変わりゆく微妙な人間関係に重点を置いた作品。250ページほどの短い作品ということもあり、あっという間に読了してしまった。面白い。
読了日:02月19日 著者:R・L・スティーヴンスン,L・オズボーン
螢坂 (講談社文庫)螢坂 (講談社文庫)感想
香菜里屋シリーズ3作目。ビアバーを舞台にした短編集。シリーズの中で一番面白いと思う。
読了日:02月25日 著者:北森 鴻
自炊力 料理以前の食生活改善スキル (光文社新書)自炊力 料理以前の食生活改善スキル (光文社新書)
読了日:03月01日 著者:白央篤司
アナキズム――一丸となってバラバラに生きろ (岩波新書)アナキズム――一丸となってバラバラに生きろ (岩波新書)
読了日:03月02日 著者:栗原 康
贖罪贖罪感想
すごく面白かった。帯にある「世紀の大傑作!」という煽り文句がまさにぴったり。物語を愛する少女が作り上げた物語により離れ離れになってしまった恋人たち。その後、恋人たちを戦争が襲い、少女は罪を贖うかのように看護婦を志す。少女はやがて作家となるが、書くことで彼女の罪が赦されることはあるのだろうか。
読了日:03月02日 著者:イアン マキューアン
北氷洋: The North Water (新潮文庫)北氷洋: The North Water (新潮文庫)感想
北氷洋捕鯨を舞台にしたエンタメ小説。かなり暴力的で陰惨。しかしその暴力的な人間たちや厳しい自然の向こうにある光景に、人生の真髄を見た気がした。捕鯨小説繋がりで『白鯨』を読み返したくなった。
読了日:03月08日 著者:イアン マグワイア
元年春之祭 (ハヤカワ・ミステリ)元年春之祭 (ハヤカワ・ミステリ)感想
前漢時代の中国を舞台にした本格ミステリ。読者への挑戦が2回もある本格派。キャラクター造形と、数多の引用文献を引いての思想合戦という構成によって、独特の雰囲気と後読感がある。こんなミステリ初めてだ。小説の世界の広さを感じさせる一冊。
読了日:03月10日 著者:陸 秋槎
黒猫の三角 (講談社文庫)黒猫の三角 (講談社文庫)
読了日:03月15日 著者:森 博嗣
白昼の悪魔 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)白昼の悪魔 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
読了日:03月21日 著者:アガサ クリスティー
最初の悪い男 (新潮クレスト・ブックス)最初の悪い男 (新潮クレスト・ブックス)感想
すごい小説。
読了日:03月23日 著者:ミランダ ジュライ
ペガサスの解は虚栄か? Did Pegasus Answer the Vanity? (講談社タイガ)ペガサスの解は虚栄か? Did Pegasus Answer the Vanity? (講談社タイガ)
読了日:03月24日 著者:森 博嗣
血か、死か、無か? Is It Blood, Death or Null? (講談社タイガ)血か、死か、無か? Is It Blood, Death or Null? (講談社タイガ)
読了日:03月27日 著者:森 博嗣
人形式モナリザ Shape of Things Human (講談社文庫)人形式モナリザ Shape of Things Human (講談社文庫)感想
Vシリーズ2作目。七海刑事が本格的に登場、シリーズの雰囲気が盛り上がってくる一冊。
読了日:03月29日 著者:森 博嗣
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)感想
再読。何故か初読時よりもずっと面白く感じて一気読み。
読了日:03月31日 著者:伊藤 計劃
月は幽咽のデバイス (講談社文庫)月は幽咽のデバイス (講談社文庫)
読了日:04月13日 著者:森 博嗣
夢・出逢い・魔性 (講談社文庫)夢・出逢い・魔性 (講談社文庫)
読了日:04月20日 著者:森 博嗣
戦争と平和〈6〉 (岩波文庫)戦争と平和〈6〉 (岩波文庫)感想
長かった。面白かった。読み終えた瞬間、もう一度初めから読み返したくなる類の物語。
読了日:04月29日 著者:トルストイ
パワーパワー感想
ディストピア小説。突然女性がパワーを持ち、男女の権力構造が逆転した世界を描く。劇中劇という構造を持っており、メインの物語の部分は、今から5000年後の世界に21世紀の現代を描いた小説である、という変わった書き方をしている。その書かれた小説世界である、女性がパワーに目覚めた社会は暴力に溢れている。混沌に向かう世界は、読者である私たちに対する皮肉そのものである。そして最後まで読むとこの小説の構造が物語の行く末を暗示していることが分かりゾクゾクとした。
読了日:04月30日 著者:ナオミ・オルダーマン
影の子 (ハヤカワ・ミステリ1931)影の子 (ハヤカワ・ミステリ1931)
読了日:05月01日 著者:デイヴィッド・ヤング
世界史を変えた13の病世界史を変えた13の病
読了日:05月25日 著者:ジェニファー・ライト
じごくゆきっじごくゆきっ
読了日:06月21日 著者:桜庭 一樹
イエスの幼子時代イエスの幼子時代
読了日:06月22日 著者:J・M・クッツェー
果糖中毒 19億人が太り過ぎの世界はどのように生まれたのか?果糖中毒 19億人が太り過ぎの世界はどのように生まれたのか?
読了日:06月29日 著者:ロバート・H・ラスティグ
あの家に暮らす四人の女あの家に暮らす四人の女
読了日:06月30日 著者:三浦 しをん
アウトサイダー 陰謀の中の人生アウトサイダー 陰謀の中の人生
読了日:07月01日 著者:フレデリック・フォーサイス
モンテ・クリスト伯〈1〉 (岩波文庫)モンテ・クリスト伯〈1〉 (岩波文庫)感想
ここ数年のいつか読みたい本No.1だった『モンテ・クリスト伯』をついに購入。読み進める。面白い。先はまだまだ長そう。
読了日:08月01日 著者:アレクサンドル デュマ
モンテ・クリスト伯〈2〉 (岩波文庫)モンテ・クリスト伯〈2〉 (岩波文庫)
読了日:08月01日 著者:アレクサンドル デュマ
やってはいけない歯科治療 (小学館新書)やってはいけない歯科治療 (小学館新書)
読了日:09月01日 著者:岩澤 倫彦
浪費図鑑―悪友たちのないしょ話― (コミックス単行本)浪費図鑑―悪友たちのないしょ話― (コミックス単行本)
読了日:09月01日 著者:劇団雌猫
ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)感想
パンクな文体で書かれたパンクなSF。世界観が秀逸で、医療テクノロジーと混沌が同居する未来のチバ・シティから物語は始まる。しかしストーリーは王道で、決して強いとは言えない主人公が、仲間と共に巨大な悪に立ち向かう、といつもの。そしてハヤカワ文庫版の表紙のデザインが素敵すぎる。本屋で見るたびに、持っているのに手に取りたくなる。
読了日:09月01日 著者:
折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5036)折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5036)感想
中国SFアンソロジー。面白かった。表題作『折りたたみ北京』には続編があるそう。続編、邦訳でないかな。
読了日:09月01日 著者:郝 景芳
天空の矢はどこへ? Where is the Sky Arrow? (講談社タイガ)天空の矢はどこへ? Where is the Sky Arrow? (講談社タイガ)
読了日:10月01日 著者:森 博嗣
プラットフォーム (河出文庫)プラットフォーム (河出文庫)感想
ウエルベック現代社会のシステムが内包する「いやらしさ」や「残酷さ」を真正面から受け止め、フィクションに昇華し、描き切る稀有な作家だと思う。『プラットフォーム』も文句なしに面白いのだけど、自分が高度に発達した資本主義社会、気がつかないうちに誰かを搾取しているかもしれない社会の中に生きるしかないことが、少し嫌になった。
読了日:10月01日 著者:ミシェル ウエルベック
屍人荘の殺人 (創元推理文庫)屍人荘の殺人 (創元推理文庫)感想
ネタバレされる前に読めて良かった、と心から思った一冊。
読了日:11月01日 著者:今村 昌弘
ロス男ロス男
読了日:11月01日 著者:平岡 陽明
日曜日の人々 (講談社文庫)日曜日の人々 (講談社文庫)
読了日:11月01日 著者:高橋 弘希
17931793感想
北欧ミステリ。しかしミステリと括るには重厚すぎる物語。近代社会の混沌とした様子と人々が必死に生き抜こうとする姿を書ききった傑作。続編もあるそう。楽しみ。
読了日:11月05日 著者:ニクラス ナット・オ・ダーグ
夜のアポロン夜のアポロン
読了日:12月01日 著者:皆川 博子
「生きづらい日本人」を捨てる (光文社新書)「生きづらい日本人」を捨てる (光文社新書)
読了日:12月01日 著者:下川 裕治
カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)感想
ミステリの面白さが詰まった一冊。面白い。
読了日:12月15日 著者:アンソニー・ホロヴィッツ
カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)
読了日:12月15日 著者:アンソニー・ホロヴィッツ
夫婦幻想 (ちくま新書)夫婦幻想 (ちくま新書)感想
夫婦についてのノンフィクション。長年に渡って同じ夫婦にインタビューすることで、それぞれの夫婦が抱える問題と、それを乗り越えていった軌跡を追う。現代の夫婦の多様性を感じる一冊。さまざまな夫婦の形があるのだなあ。
読了日:12月15日 著者:奥田 祥子
約束された場所で (underground2)約束された場所で (underground2)感想
村上春樹さんがオウム信者の「普通の人」にインタビュー。
読了日:12月18日 著者:村上 春樹
精神鑑定はなぜ間違えるのか? 再考 昭和・平成の凶悪犯罪 (光文社新書)精神鑑定はなぜ間違えるのか? 再考 昭和・平成の凶悪犯罪 (光文社新書)
読了日:12月22日 著者:岩波明
昏き目の暗殺者 上 (ハヤカワepi文庫)昏き目の暗殺者 上 (ハヤカワepi文庫)
読了日:12月27日 著者:マーガレット アトウッド
昏き目の暗殺者 下 (ハヤカワepi文庫)昏き目の暗殺者 下 (ハヤカワepi文庫)
読了日:12月27日 著者:マーガレット アトウッド
はだかの太陽〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF ア 1-42) (ハヤカワ文庫SF)はだかの太陽〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF ア 1-42) (ハヤカワ文庫SF)感想
鋼鉄都市』の続編。長編SFミステリ。地球人ベイリと惑星オーロラ出身の人型ロボットダニールのコンビが、人と人とが触れ合わないで生活をしている惑星ソラリアで起きた殺人事件の謎解きに挑む。
読み進めることで、殺人事件の謎だけではなく、地球人とは全く異なった社会を形成しているソラリア人たちの生活様式が明らかになっていくところが、SF的で楽しい。地球人の常識は、ソラリア人の非常識。
読了日:12月30日 著者:アイザック・アシモフ
熱帯熱帯感想
2日で読了。「熱帯」という物語をめぐる物語。物語が幾重にも入れ子になっている構造で、読めば読むほど「熱帯」の迷宮に入り込む。物語は語るものがいるかぎり、存在するのだ。
この物語のキーとなっている『千一夜物語』が未読なことが悔やまれる。シャハラザードが語る物語を聞いてみたい。

読了日:12月31日 著者:森見 登美彦

読書メーター


dokusyotyu.hatenablog.com
2019 年で特に思い入れのある本について書いた。

dokusyotyu.hatenablog.com
昨年の読書メーターまとめより。

『モンテ・クリスト伯』アレクサンドル・デュマ【読書感想】

 年末年始の長期休暇を利用して岩波文庫で7冊に及ぶ長編小説モンテ・クリスト伯』(アレクサンドル・デュマ著)を読了した。モンテ・クリスト伯あるいは巌窟王の題名で知られ、ドラマ化もされ、主人公エドモン・ダンテスがスマホゲームFGOに取り上げられる程度には有名なこの作品を、私はジュブナイル版も含めて読んだことがなかった。「不当に投獄された主人公が恨みを晴らす復讐小説である」という知識はあったが、読んでいないことをどこか後ろめたく思っていた。大学時代、友人が当たり前のように「読んだことがある」と言っていたことが、劣等感につながっていたのかもしれない。もちろん読書は他人と比較しすることではないのだが。
しかし文庫で7巻。原著が書かれた時代は19世紀。訳だって50年以上前のもの、とくれば、読みはじめるのに勇気がいる。果たして私の読書力でこの小説を楽しむことが出来るのだろうか。しかし躊躇していても仕方がない。少しずつ読み進めていた『戦争と平和』を読了したタイミングで、文庫本を何冊かまとめ買いし、本棚の一番手前に並べた。あとは読むしかない。

モンテ・クリスト伯』を読んでみた。

 舞台はフランス。革命と政変の時代。主人公は、実直な船乗りであり、若くして船長の地位が約束されていたエドモン・ダンテス。彼は、結婚式の当日に、彼の成功を妬む3人の男からナポレオン派だと告発され逮捕された。さらには検事代理が自らの保身のために厳罰に処したため、不当に牢獄に入れられてしまう。
 しかし10年以上に及ぶ投獄の末、彼は脱獄し、莫大な富を経て、名前を捨て「モンテ・クリスト伯」となった。かつて彼を陥れた男たち−−彼らはパリでそれぞれに出世し、家庭を築いていた−−に復讐を企て、実行する。

 この長い物語は、分かりやすい勧善懲悪ものである。モンテ・クリスト伯による容赦ない復讐の過程を私たちは目の当たりにする。ではどうして物語がここまで長いのか。それは登場人物たちはそれぞれに妻や子を持ち、その各登場人物たちの人間関係やモンテ・クリスト伯との関わりが丁寧に書かれているからである。登場人物たちはみんな人間臭く、それ故、全員が自己中である。なので、モンテ・クリスト伯の復讐の過程において、これでもかというほどイベントが発生する。

 この作品は19世紀のエンタメ小説である。脱獄のシーンは冒険小説のようであるし、プラトニックな恋愛と不倫が同じように物語の要素として重要であるし、青年同士の熱い友情もあれば、2人の少女が手に手を取って家出する百合的な展開もある。毒殺者は誰かというミステリ要素、また誤情報による株の操作という経済小説的な要素もあれば、戦時中の裏切りとその告発というスリリングな展開もある。他にも様々な要素があるのだが、それが「モンテ・クリスト伯の復讐」という大きな目的の内に収束していくのだから、これはすごい物語である。読み継がれるだけのことはある。

主題は何か。

 単純にエンタメとして読んでそれで十分に面白かったのだが、しかしこの物語は深読みも可能であると思う。
 『モンテ・クリスト伯』には「神」という言葉が多く出てくる。この物語のひとつの主題は信仰との向き合い方であると思う。
 また、モンテ・クリスト伯はしばしば彼の復讐相手に対し、自らの行動は「神からの罰」であると言う。神に代わって罰しているのだと。
 しかし人間は神として振舞うことは許されるのであろうか。モンテ・クリスト伯は莫大な富を持ち、超法的な存在であり、神のように振る舞うことも可能である。彼が絶対的な正義としても、だからといって、神に代わって悪を罰することは許されるのか。この問いも、特に物語の後半を通して語られる、ひとつの大きなテーマであると思う。また「生まれついての悪人は存在するのか」「親の罪を子は償うべきか」「金があれば幸せになれるのか」「人を信じるとはどういうことか」といった、多くのテーマでこの物語は語られることができるだろう。
 このように複数のテーマを内包し、様々な角度から読み解くことができることもこの物語の魅力であり、長く読み継がれてきた理由であると思う。

 この小説は確かにとっつき難い面がある。登場人物の名前と関係性を覚えなければ物語が分からなくなるし、訳は流石に古臭いし、セリフが大仰で長々しい。1、2巻は収監から脱獄の話なので物語は進むが、3巻目は復讐に向けた長い長い伏線なので途中で挫折しそうになった。
 しかし一方で、それらの欠点を上回る楽しさを与えてくれる物語であった。なんだかんだで、後半は一気に読んでしまった。そして読了時には、読み切ったという大いなる満足感を得ることができた。楽しい時間だった。

モンテ・クリスト伯〈1〉 (岩波文庫)

モンテ・クリスト伯〈1〉 (岩波文庫)

『はだかの太陽』アイザック・アシモフ【読書感想】

 正月休み前に早川書房電子書籍セールで、SF小説大人買いした。数年前からSFを読み始めた初心者からすると、「古典SF」といわれるような有名どころの小説が安く買えるのは大変有り難い。10冊ほど買ったので、来年1年かけて少しずつ読んでいこうと思う。
 今回読んだアイザック・アシモフ著『はだかの太陽』は、昨年セールで買った鋼鉄都市の続編にあたる。

地球人ベイリ×人型ロボットダニール、再び殺人事件に挑む

 未来の地球人たちはドームと呼ばれる外界と隔離された都市に生活している。外の世界は危険がいっぱい。ましてや宇宙には先進技術を持ったスペーサーたちがいる。
 主人公は地球人の刑事ベイリ。彼は要請を受け、惑星ソラリアで起きた殺人事件を解決するために、決死の覚悟で地球を飛び出す。彼は宇宙どころか、地球の屋外にすらほとんど出たことがないのだ。不安とホームシックを抱え訪れたソラリアで、かつてのパートナー、惑星オーロラ出身の人型ロボットダニールと再会し、再びタッグを組んで殺人事件に挑んでいく。

 筋書きとしては、刑事モノの小説そのものである。ベイリは一人ずつ事件関係者に会いに行き、推論を重ね、その過程で新たな殺人事件に巻き込まれたり、自らの命が狙われたりするものの、少しずつ事件の真相に迫っていく。
 しかしこれはSFである。舞台となっているソラリア社会は、厳密な産児制限により極端に少ない人口が維持されており、少数の人間と多数のロボットにより成り立っている。究極の過疎地域なのだ。そこでは人々は直接会うことなく暮らしている。コミュニケーションは三次元映像によって行われ、子供は妊娠後1カ月の胎児からファームと呼ばれる養育場でロボットに育てられ、夫婦ですら滅多に顔を合わせることがない。人々は他者と会うことを嫌悪し、恐怖しているのだ。
 そんな「人と人とが直接会わない」世界で、何故、そしてどのように殺人事件は起こったのか。

地球人の常識はソラリア人の非常識

 読書の前半、読みながら、なんだかしっくりこないなと思っていた。どうしてだろうと思っていたが、ソラリア人たちの常識が、地球人であるベイリ(と私)の常識と大いに異なるため、一種のコミュニケーション不全が起こっているからかもしれないと思い至った。物語の序盤から中盤にかけて、私にはベイリがやけに怒りっぽくわがままで幼児的に思えた。常識や見えている世界が違う相手に、自分の常識を無理やりぶつけており、会話をするも相互理解に至らない。そのもどかしさが、読んでいる間のしっくりこなさにつながっていたのだろう。
 またベイリが見せた幼児性は、地球人である彼とスペーサーたちの圧倒的な知識量の差を背景にしており、彼の態度はスペーサーたちから見た地球人の見え方(無知で野蛮な地球人)を暗喩しているのかもしれない。
 物語が進むにつれて、ベイリと読者はソラリア社会についての知識を得ていく。それに伴いギアが噛み合ったように、物語は読みやすくなった。ベイリも本来の魅力を取り戻していく。圧倒的な劣位者から、対等な関係へと立場が変化していく。そしてついには、地球人という外部の視点を持っていたからこそ、事件のカラクリに気づき、ソラリア人たちとベイリの立場は逆転する。そしてその気づきは殺人事件を解決するだけではなく、地球をも救うことにつながるのだった。

 私の常識は、誰かの非常識。そんな言葉が自然と浮かんでくるSFだった。常識は絶対ではない。そしてSF小説は「常識」というものを自由自在に変えてみせることで、今まで見たことのないような世界を描き出すことができる素敵なジャンルだなあと思った。

dokusyotyu.hatenablog.com
↑シリーズ前作『鋼鉄都市』の感想文。