読書録 地方生活の日々と読書

趣味が読書と言えるようになりたい。

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6年使ったKindleが壊れた【日記】

 久しぶりのブログです。相変わらず毎日、本を読んでいるのだけれど、あまり感想を書けずにいる。12月末に引っ越すことになったので、読んだ本を片っ端から段ボールに詰めこんでいるからだ。ちなみにここ1ヶ月で、読んで一番面白かった小説は、ミラン・クンデラ著の『冗談』。処女長編でこんなに面白いのか、と驚いた。好きな作家の本だし、感想を書いておきたい気持ちはあるのだが、『冗談』も今や段ボールの海の中だ。
 もうすぐ引っ越しということもあり、新しい本も買わないようにしている。本屋に行くと買いたくなるので、本屋自体に寄らないようにしている。

 物体としての本をあまり買えないとなると、頼りになるのは電子書籍である。
 しかし、タイミングが悪いことに、使用していたKindleが、突然動かなくなってしまった。再起動もできない。
 購入履歴を確認すると2014年から使っていた。6年半の使用。そろそろ買い替えどきなのか。積んでいる電子書籍も何冊もあるので、電子書籍リーダーのない生活はもはや考えられない。タブレットで読むことはできるが、我が家ではタブレットは家の中で使うことを前提に運用しているので、外でも読書できる電子書籍リーダーはやはり欲しい。
 そうこう考えているうちに、Amazonブラックフライデーのセールを知った。3000円OFF。壊れてしまったものは仕方がない。これからの6年の読書のための投資と思い、思い切って購入した。Kindleでは文章メインの本しか読まないので、一番安い無印のKindleを購入。Kindle Paperwhiteの防水機能(=入浴中もKindleで本が読める)はかなり魅力的だが、風呂では電子書籍ではなく、紙の本を読もうと割り切った。

 つい先ほど、さっそく購入したKindleが届いた。今まで持っていたものよりも一回り小さくて、軽い。
 残った問題は、今まで使っていたKindleをどうするかということだ。
 もちろん、使わない道具は捨ててしまえばよい。断捨離だ。電子書籍リーダーに本としての中身はないのだから。
 しかし、なかなか割り切れない自分もいる。
 考えてみれば、このKindleとはいろいろな場所に行った。
 学生時代のフィールドワーク。就職活動。社会人になってからは旅行や出張の度に持ち歩いた。新婚旅行にも持っていった。
 2年前、アフリカにツアー旅行で行ったが、思い返してみると、異国の情景や珍しい食事の味わいよりも、砂漠の中にあるホテルで読んだSF小説『星を継ぐもの』の面白さの方が強く印象に残っている。『星を継ぐもの』も、Kindleで読んだ。
 趣味読書歴も20年を超えると、読書の楽しみや思い出というものは、本の中身だけでは決まらないことが分かってくる。本を手に取った時の状況やシチュエーションも、大切な読書との思い出となる。その思い出の一翼を担ってきたデバイスを、使えなくなったからといって簡単に捨ててしまうのは忍びない。
 どうしたものかなと思いながら、古い相棒を眺める。
 いくら画面を触ってみても、もう、彼は応えてくれない。

祝・映画化!『ナイルに死す』【読書感想】

 もうすぐ映画化ということでアガサ・クリスティー『ナイルに死す』を再読。久しぶりのクリスティーです。ナイル川クルーズで起こる殺人事件をたまたま居合わせた探偵ポアロが捜査し推理し解決するというミステリー。プロットだけを見れば典型的な推理小説の形であるが、そこは流石ミステリーの女王クリスティー、読ませます。
 特徴的なのはなかなか殺人事件が起きないこと。それどころか『ナイルに死す』という題名にも関わらず、なかなかエジプトにも行かない(80ページからの第二部でようやく舞台はエジプトへ)。事件が起こる前の部分、登場人物それぞれの姿をじっくりと書き出している。
 だからだろうか。今回読んだ早川書房クリスティー文庫(訳者は加島祥造さん。同じくクリスティー文庫からは黒原敏行さん訳の新訳も出ています)の冒頭には次のような注意書きがある。

訳者からのお願い

 はじめは少しゆっくり読んでください。登場人物表を参考にして、各人物の様子を頭に入れ、地図を参考にして、この舞台を想像してください。あとはーー前書きの末尾でクリスティー女史の言う通りです。

 以前読んだのは別のレーベルのものだったのかな。この文章を読んだのは初めてな気がする。
 ちなみに前書きの末尾には次のようにある。

 自分では、この作品は”外国旅行物”の中で最もいい作品の一つと考えています。そして探偵小説が”逃避的文学”だとするなら、(それであって悪い理由はないでしょう!)読者はこの作品で、ひとときを、犯罪の世界に逃れるばかりでなく、南国の日差しとナイルの青い水の国に逃れてもいただけるわけです。

 素敵な文章。逃避的文学。

 さて。注意書きに従って丁寧に読む。登場人物表、地図、船室の部屋割り表と本文を行ったり来たりしながら読み進める。
 殺人事件が起こるころには、登場人物達に親しみや反感を覚えている。そして事件が起こる前に、読書の私は、著者クリスティーにすっかり騙されていたことを、最後まで読んでから改めて知ることになるのだ。

『ナイルに死す』とアガサ・クリスティーのミステリの魅力

 改めて読んで著者の本が長年に渡り多くの人に愛される理由の一端を知ることができた気がした。
 もちろんミステリとして優れているということもある。しかしそれ以上に特徴的なのは著者が登場人物に向ける眼差しなのではないか。著者は人間の「愚かさ」を生々しく書き出す。『ナイルに死す』は登場人物の多い作品だが、一人ひとりの性格やそれぞれの「愚かさ」を鮮明に描いている。探偵役であるポアロも含めて。人間の愚かさというのは時代が変わろうが、克服されるものではない。だからこそ著者の物語は時代や地域を超えて愛されているのではないか。
 そして人間が一番愚かになるのは恋に落ちたときである。この物語では3組の恋愛模様が描かれる。新聞に書き立てられるほどの派手な恋愛もあれば、殺人事件現場という異様な状況の中でひっそりと芽生える恋もある。事件の解明と共に変化していく恋愛模様や人間関係も、この物語の読みどころのひとつである。その結果はあるものにとっては解放であり、あるものにとっては破滅であった。
 恋や殺人事件といった非日常時に見せる人間の素顔を、筆者は簡潔だが立体的に書き上げる。ミステリにありがちな「役割」としてだけの登場人物はほとんど出てこない。型どおりだけではない登場人物の描写を読むと、さすが『春にして君を離れ』を書いた人だなと思う。
 個人的に一番気になった人物は、この恋愛劇の一翼を担う登場人物の一人でもあるファーガスン。登場人物表の言葉を借りれば「社会主義的な男」なのだが、なかなかに拗らせている人物として物語に登場する。彼についてはもっとその背景を知りたかったなあ。興味深い人物であった。

映画化。ケネス・ブラナー監督『ナイル殺人事件

 『ナイルに死す』は何度か映像化や舞台化がされているそうだ。原作者アガサ・クリスティー自身によっても戯曲化されている。
 2020年の秋、本作は再度ナイル殺人事件として映画化される。公開日は10月23日だそう。監督はケネス・ブラナーさん。もちろん映画館へ行くつもりだ。映画を見る前に原作は読んでも前情報は摂取しない派なので、詳しいことは分からないが、なんだかとても楽しみだ。
 個人的にはトリックの要である「空白の時間」の演出をどのようにしているのか、とても気になっている。犯人もトリックも知ってしまっているが、おおいに騙されたいと思う。

 それから改めてアガサ・クリスティーの略歴を見たのだが、1890年生まれで1920年デビューとのこと。そうか30歳で作家デビューされたのだな、となんだか妙に励まされた。

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本棚と読書。

 欲しい本がたくさんある。各出版社の新刊も気になるし、お金に余裕が出来たら是非買いたい全集もある。しかし年末に引っ越す予定があるので、物としての本を買わないようにしている。同時に少しずつ本棚の本も片付けて段ボールに箱詰めしている。

 今のアパートに引っ越してきた3年前に買った本棚がある。よくあるスライド式の本棚で、持っていた本をしまうと半分ぐらいの棚が埋まった。意外と収納力があるなあと思っていたが、あっという間に空いていた棚は埋まってしまい、下段のスライド棚は本の重さで動きが悪くなってしまった。あまり読まない漫画などは、随時箱に詰め押入にしまったりはしているのだが、今年に入ってからは諦め気味で、棚に収まらない本は床に直置きしている。部屋はカオスな状況になっている。
 せっかくなので、画像を晒そうかとも思ったが、私一人の本棚では無くなってしまったので自重する。

 引っ越しは蔵書を整理する一大チャンスだ。なので最近はよく本棚を眺めている。しかしなかなか整理出来る本がない。大学生〜社会人になったくらいのころは、引っ越しのたびに50冊100冊という単位で本を整理していた。その度に本棚は洗練され、また買うときは厳選し本を買うようになった。結果として手放せる本はほとんどなく、欲しい本は大量にあり、ゆっくりとだが確実に部屋の本は増える一方だ。

 それにしても本棚を眺めるのは楽しい。読書の楽しみといえば、本を読むことや本の内容の面白さ自体を焦点にして語られることが多いと思う。しかし読書の楽しみというのは、本を読んでいるときだけのものではない。
 本棚を眺めたり、本棚の本を並べ替えしたりする楽しさは、本を読むこと自体の楽しさに匹敵すると思う。自分の年間ベストやオールタイムベストを考えるのも楽しいし、アンソロジーを編むならどの短編を選ぶか迷うのも楽しい。読書を趣味とし、たくさんの本を読むことのメリットはこのような楽しみ方が出来ることであろう。
 引越し先では自分だけの本棚を作る予定だ。今からどのように並べるのか妄想しては楽しんでいる。今は作者別に並べているが、次は出版レーベル別に並べようかなと考えている。出版レーベル別マイベストを考えたら思いのほか面白かったからだ。でもそうすると作者買いした本たちがバラバラになってしまう。悩みどころだ。


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↑5年前に書いた本棚さらし記事