読書録 地方生活の日々と読書

趣味が読書と言えるようになりたい。

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最初で最期の心斎橋アセンス。

人生とは、ままならないものである。

数年前にインターネット上で話題になっており、いつか読みたいと思っていた本を、心斎橋アセンスの本棚で見つけた。ジョン・ウイリアムズ著『ストーナー』。100年前のアメリカに生まれた1人の男の一代記である。白いカバーにシンプルな書体で書かれた題名に、思わず手を伸ばした。2800円という値段に一瞬躊躇するも、これも何かの縁だと思い購入した。

アセンスという本屋はツイッターで知った。本に対するコメントが暖かく、ホームページで見る店内の様子も素敵だったので、いずれ行きないなと思っていた。お店を知ってしばらく経ったある日、「2018年9月30日をもって全面閉店する」という主旨のツイートが。これは行かねば、と思った。

電車に乗って約1時間。観光客で溢れる大阪難波の街を歩き、本屋を目指す。さほど大きくもないビルの三階にアセンスはあった。一階は派手なポップがうるさいドラッグストア。以前はこの一階も本屋だったらしい。
二階に上がると、そこは外の喧騒とは別世界が広がっていた。静かな空間に、選ばれた本たちが、読書に出会うのを待っていた。さほど面積は広くない。並んでいる本の数も多くはない。しかし、意図を持って並べられているのが一目で分かる本棚に、私の気分は自然とあがった。サイン本や画集の棚も充実している。そして文芸棚。並ぶ本が好みにドンピシャ。読んでみたいと思っていた本や、タイトルを一目見て面白そうと思える本が並んでいる。本棚ごと全て読みたい、そう思った。ああ、もっと早くこの本屋を、この本棚を知りたかった。
ストーナー』は、そんな本棚の一冊であり、同著者の『ブッチャーズ・クロッシング』と並んでいた。『ストーナー』が実際に本屋で並んでいるのを見るのは、初めてのことだった。運命的な出会いとも言えなくもない。

単行本をレジに持っていく。カバーをかけるかどうか問われ、普段はカバーはかけない派だが、せっかくだから記念にと思いお願いする。店員さんが丁寧に、白いカバーをかけてくれた。

こんな素敵な本屋さんが閉店になってしまうのか、と思った。なんとなく寂しく感じる。それと同時に、ひとりの本屋好きとして、本は実店舗で買おうと思った。出来るだけ地元の、潰れたら一番困ると思う本屋で買おう。

今の時代、インターネットで本を買うのは簡単だ。しかし本屋で本を買うという体験は、「購入」ボタンをクリックする以上のものがあるはずだ。私は、消費者として、読書としてしか本や本屋とは関わることができない。だからこそ、消費者として出来ること、応援したい店舗にお金を使う、ということを意識していきたい。