読書録 地方生活の日々と読書

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100刷達成のベストセラーSF小説 『星を継ぐもの』ジェイムズ・P・ホーガン【読書感想】

 その本の題名はだいぶ昔から知っていたように思う。ジェイムズ・P・ホーガン著『星を継ぐもの』。インターネットで「おすすめ SF」などと検索するとまずヒットする有名作である。いつか読まないとなと思いながらも、読まずにいた脳内積読本の一つであった。
 2018年の末、東京創元社ツイッターにて、「【祝!100刷!】」としてこの本が紹介されていた。

【祝! 100刷!】

1980年に初版が発行された、ジェイムズ・P・ホーガン/池央耿訳『星を継ぐもの』が、刊行から38年の時を時を経て遂に100刷となりました!

これぞまさにオールタイム・ベスト。
創元SF文庫が自信を持ってお薦めする一冊です。

 100刷というのがどれほどすごいことなのか、実はあまりピンときていなかったのだが、さすがにそろそろ購入した方がよいのではないかという気になった。この宣伝にまんまとのせられた形である。購入。キンドル版。奥付を確認すると、キンドル版は2014年の94版を底本としているそうだ。

月にある遺体の謎を解く

 読むとさすがベストセラー、面白かった。裏表紙の要約を引用しよう。

月面調査隊がシンクの宇宙服をまとった死体を発見した。すぐさま地球の研究室で綿密な調査が行われた結果、驚くべき事実が明らかになった。死体はどの月面基地の所属でもなく、世界のいかなる人間でもない。ほとんど現代人と同じ生物にもかかわらず、五万年以上も前に死んでいたのだ。

 彼は地球人なのか、それとも別の星から来た宇宙人なのか。地球人とすると年代が合わないし、宇宙人とすると現代人に似すぎている。主人公は企業の雇われ科学者であるヴィクター・ハント。彼はこの謎の解決に取り組むが、調査が進むに連れて、新たな謎に突き当たる。
 物語は、この月面上の遺体(チャーリーと名付けられた)の謎解きを首軸に動いていく。というか、この小説は全編が謎の調査に当てられており、物語の作りとしてはノンフィクションに近いものがある。主人公は余計な恋愛なんてしないし、家族もいない。同僚との確執はあるが、しかしそれも学術的な立場の相違に根ざしたものである。余計なものを切り落とされている分、私たち読者も主人公と同様に謎の解明に集中することになる。そんな読書体験が面白い。余計な物語を切り落としたが故の面白さという点では、「地球への生存」に特化したSF小説『火星の人』(アンディ・ウィアー著)に通じるものがある気がする。

 また、この小説はお仕事小説としても読める。主人公ハントは謎の解明=仕事しかしていないともいえる。そう読む時に面白いのが、彼の組織の一員でしかないという立場である。彼は謎に挑むといっても、直接的な調査を行うことはほとんどない。それぞれの専門家が、それぞれの専門分野の謎を解く。言語班がチャーリーの手帳に残されていた「ルナリアン語」を解読しようとし、生物学者がチャーリーの体組織の化学分析と細胞の代謝から、彼が暮らしていた星の一日の長さを割り出そうとする。ハントが行うのはそれぞれの専門家による調査結果の統合である。この一人が全てを解き明かすのではなく、多くの人の調査の研究をもって真相にたどり着く、という過程が面白い。一つ一つの研究は些細なものに見えても、それらが有機的に組み合わさることで、新たな地平が開け発展していく。科学進歩そのものではないか。この小説全体を通して、科学の発展を目の当たりにしているかのような臨場感があった。
 

2019年最初の読書

 ところで購入した『星を継ぐもの』は年末年始にかけて読んだ。年明けに読み終わったので、2019年最初の一冊はこの小説である。年末年始は海外旅行へ行っていたので、この本はその旅先で読んでいた。せっかくの海外旅行で読書、と思わなくもない。しかし、異国の地で2日ほど本を読まずにいたのだけれど、私にはそれが限界だった。ああ、本が読みたい、と切実に思った。活字中毒者の禁断症状。観光終わりにホテルのベッドの上で夢中で読んだ。異国の地で読んだ日本語訳されたイギリス人作家によって書かれた未来の地球と宇宙を題材にしたSF小説。思い出深い一冊となった。

星を継ぐもの (創元SF文庫)

星を継ぐもの (創元SF文庫)