読書録 地方生活の日々と読書

趣味が読書と言えるようになりたい。

MENU

『戦後ゼロ年 東京ブラックホール』貴志謙介【読書感想】

 真っ黒な背景に赤い文字で題名が書いてある。『戦後ゼロ年 東京ブラックホールはそんな本である。
 NHKスペシャル「戦後ゼロ年 東京ブラックホール 1945-1946」を書籍化したノンフィクション。著者である貴志謙介さんはこの番組のディレクターである。
 番組も見ていたが、書籍化していたことを知り、手にとった。不謹慎なのかもしれないが、とても面白かった。知らないことを知る面白さ。そしてその知らなかったことを知ることで、身の回りの世界の見方が少し変わる。そんなノンフィクションの醍醐味が詰まっている。
 冒頭で著者はいう。

この本では、戦後ゼロ年の東京、すなわち、一九四五年九月のマッカーサーによる東京進駐から始まって、翌年の夏、敗戦一周年を迎えるまでの虚脱と狂乱の一年間を、おおむね時の流れに沿い、追体験していく。そして、新たに発掘された資料や映像を手掛かりとして、いままで視界をさえぎっていたブラックホールに分け入り、戦後ゼロ年の時空を俯瞰するパノラミックな透視図を作ってみたいと思う。
 もし、その透視図を現在の東京の姿と重ね合わせることができれば、なぜ日本社会がこうなっているのか、その仕掛けがおのずから透けて見えてくるに違いない。

 番組を見た際も思ったのだが、私は戦後ゼロ年のことを何もしらない。
 「戦後」と聞くと「戦後の焼け野原」といった定型文がすんなりと出てくる。しかしそこには人々の生活があった以上、定型文なんかに収められるようなものではなかったはずだ。だからといって具体的にその頃の生活や時代の空気感を想像することすら、私にとっては難しい。たった二世代前の人たちが生きた時代が、とても遠い。
 祖父母は戦争の時代を生きたが、戦後すぐの話は聞いたことがなかった。当時の生活をもっとよく聞いておけばよかった、と思う。その時代をどうやって生き抜いたのか。戦後のハイパーインフレを生き抜いた祖父母はきっと、私とは根本的なところで命に対する見方や金銭感覚が違ったのではなかったか。

 飢えも闇市も物価の変動も経験していない現代生きる私にとって、だからこそ、この本は驚きの連続だった。それはどこか遠い世界で起こったことのようにも感じた。しかし一方で、最近世間を騒がせている統計の不正や格差の増大のニュースを見ると、戦中戦後の頃からこの国の本質は何も変わっていないのではないか、と妙な納得を覚えたりもする。そう。戦後ゼロ年から、一人ひとりが日々を積み重ねた結果が、今の日本の社会の姿である。そして今日の生活が積み重なって、未来の日本を作っていくのだ。
 


第一章 東京はパラダイス
第二章 ヤミ市のからくり
第三章 隠匿に狂奔するエリート
第四章 だれも焼け跡暮らしを覚えていない
第五章 国家が女を”いけにえ”にした
第六章 占領軍を食う成金紳士
第七章 狂乱の「東京租界」
第八章 踊る聖女と「ミスター天皇
第九章 アメリカに寄生した「地下政府」
第一〇章 CIAから見た、右翼の親玉
第一一章 ヴェガスの幻、上海の夢
第一二章 犯罪都市・地獄編
第十三章 一九四六年五月、皇居乱入
終章 それから
あとがき
謝辞
主要参考資料・文献
画像出典

 
 読みながら、もう一度番組を見たいと思った。ホームページを見てみると、いくつかの動画が公開されていた。戦後すぐの生活を写した白黒映像についつい見入ってしまった。
 それから東京都内の地理が分かっていると、もっと面白く読めるのだろうなと思った(地方在住者の感想)。
 

戦後ゼロ年 東京ブラックホール

戦後ゼロ年 東京ブラックホール