読書録 地方生活の日々と読書

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三宅唱監督『きみの鳥は歌える』【映画感想】

三連休の初日。映画『きみの鳥は歌える』を観るために、久しぶりに電車に乗った。住んでいる町では上映していなかったので、大阪まで足を伸ばしたのだ。シネマート心斎橋。観光客で溢れかえる商店街を抜け、ビルの上にある映画館に入る。

本作は、函館の小さな映画館シネマアイリスから生まれた佐藤泰志原作映画の4作品目だ。シネマアイリスには、何度か行ったことがあるが、本当に小さな映画館だ。普通のアパートの一階にあり、見た目は全く映画館っぽくない。初めて入ったときは本当に入っていいものかどうか、ドキドキした。また機会があれば行きたい。函館、遠いなあ…

さて。映画の舞台は現代の函館。映画のチラシにはこうある。

函館郊外の書店で働く「僕」と一緒に暮らす失業中の静雄。「僕」と同じ書店で働く佐知子が加わり、3人は、夜通し酒を飲み、踊り、笑いあう。だが微妙なバランスのなかで成り立つ彼らの幸福な日々は、いつも終わりの予感と共にあった。

映画はこの文句の通りの内容であった。微妙なバランスの上に成り立つ三角関係。しかし物語には「告白して付き合う」といった形式を踏んだ恋愛は全面には出てこない。それでも3人の力学は物語が進むにつれて、少しずつ変化していき、そして結末を迎える。

物語全面を通して、劇的なイベントは起きない。ささいな、どこにでもあるようなエピソードが重なっていくだけの映画である。しかし、気がつけばこの映画に引き込まれていた。
それは役者の演技の賜物であり、カメラは彼らの表情をこれでもかというくらい大写しにする。その近さは、その場にいて彼らをすぐそばで見ているかのようであった。まるで、一人称の小説を読んでいるかのような映画体験であった。特に、3人がクラブで遊ぶシーンの長回しでは「僕」の目として、友人らを見ているかのように思えた。

すごい「体験」だった。
この体験は、映画でしかできないこと、の、ひとつの答えではないかとも思った。

好きなシーンは3人で宅飲みするシーンと、上記のクラブで遊ぶシーン。本当にどこにでもいる若者が、精一杯に今を楽しんでいるシーンだ。これが本当に楽しそうで。夜通し遊べる体力のあった自分自身の学生時代を思い出した。わたしにも、この瞬間が永遠に続けばいいのに、と思えた時が、確かにあった。

映画は1時間46分で終わってしまった。しかし映画の中の3人の物語は終わらない。今後3人の関係はどうなって行くのだろうか。それもすごく気になっている。

原作は未読。河出書房から文庫が出ているので今度買おうと思う。

↓以前観た&読んだ『そこのみにて光輝く
dokusyotyu.hatenablog.com