2018年の読書生活の振り返り【読書日記】
さて2018年もそろそろ終わりが見えてきたので、簡単に振り返りをしておこうと思う。今年は新天地での生活のスタートであり、環境が大きく変わったが(今年初めに引越し及び転職しました)、それにも関わらず例年通り多くの本が私の中を通り過ぎていった。さっくりと素通りしていった本もあれば、一生私の中に残り続けるだろう本もあった。充実した1年だったと思う。
印象的だった本を何冊か挙げておこう。
とにかく面白かった小説
まずは小説、アリステア・マクリーン著『女王陛下のユリシーズ号』を挙げたい。世の中には面白い小説がたくさんある。しかし最近は、大人になったからだろうか、面白い小説を読んでいても、どこか小説の世界からは距離を取りながら、俯瞰的に楽しんでいることが多くなった。ベストセラー小説の宣伝を見ても「どうせ読んだら面白いに決まってるのだから、別に読まなくてもいいか」と捻くれたことを思うくらいである。子供の頃のように、純粋に小説世界にのめり込むようなことがめっきりと少なくなってしまった。
が、この小説『女王陛下のユリシーズ号』は桁違いに面白かった。読後2、3日は小説世界から抜け出せず、ユリシーズ号と共に海上にいる夢までみた。普段は読まない戦争ものであり、決して読んでいて楽しい話ではないのだけれど、そこにある人間臭いドラマにグッときてしまった。
とにかく良くある現代的な面白い小説に飽きてしまった人は、一度読んでほしい。おすすめです。
- 作者:アリステア・マクリーン
- 発売日: 1972/01/01
- メディア: 文庫
長年の積読本を読んだ
中学生か高校生くらいのときからいつか読みたいと思っていた『死の棘』(島尾敏雄著)をついに読んだことも印象深い。国語の副教材の国語便覧で知った気がする。ご存知のとおり、作者夫妻の夫婦喧嘩の様子をこと細かに書いた私小説である。新婚生活で読む本ではなかった。とにかく凄まじまい。いろいろな読み方がされてきた本だと思うが、私は読んでいてひたすらに、夫婦喧嘩の間に取り残された幼い兄妹が不憫で仕方がなかった。色々な意味で、現代では書けない小説だろうと思う。
またこの小説の読後に『狂うひと―「死の棘」の妻・島尾ミホ―』(梯久美子著)という島尾敏雄の妻である島尾ミホに焦点を当てた評伝を読んだ。実はこちらの本を読んでみたくて、『死の棘』を読んでみたようなものである。内容は期待通りで、島尾ミホというかなり特殊な人生を歩んだひとりの女性の生涯を、「書かれる女」「書く女」という視点で追う内容。読み進めると書かれた女としてのミホの姿と実際のミホとの差異も浮かびあがり、その姿を書き出した島尾敏雄の作家の業を感じた。
この夫妻の短編が並んで収録されているアンソロジー『我等、同じ船に乗り 心に残る物語―日本文学秀作選』(桐野 夏生編)もおすすめです。
- 作者:敏雄, 島尾
- 発売日: 1981/01/27
- メディア: 文庫
- 作者:梯 久美子
- 発売日: 2016/10/31
- メディア: 単行本
ディストピア小説を読む
ところで、2018年の読書録的目標は「SF小説を読む」ということであった。積極的に読んできたジャンルではなかったため、ここいらで集中的に読んでおこうと思って設定した目標である。結果としては月に1冊も読んでいないのだが、それでもこのような機会でもなければ一生脳内積ん読のままであったろう『ソラリス』(スタニスワフ・レフ著)などが読めたので良かったと思う。
SFとは意識せずに読んだのだが、『消滅世界』(村田沙耶香著)という小説が、SFチックでとても面白かった。とある実験都市では工場で子供が育てられ、そこの市民はみんな、そうした子供たちの「おかあさん」となるという設定である。インターネット上の書評や感想文をみると、ディストピア小説という形容がされていた。
この本をきっかけにSF小説を読むというよりは、ディストピア小説を読む方向にシフトした。SF小説とディストピア小説は相性が良い。こうして出会ったのがマーガレット・アトウッド著の『侍女の物語』であり、オルダス・ハクスリー著の『すばらしい新世界』である。
特に『すばらしい新世界』は示唆に富んでおり、面白いだけではなく、いろいろと考えさせられた。自由よりも幸福を選んだ未来都市に生きる人々(ここの人々は工場で生産されて産まれてくる)の物語であり、この本を読んでからは自身の幸せや私の生きる社会について考える際に、この小説の世界観がひとつの指標として立ち現れてくるようになった。例えば、こんな自由も幸福もない働き方をするのなら、自由ではないが幸福である『すばらしい新世界』の住民の方がマシではないか…などと。
またこの『すばらしい新世界』のテーマは、森博嗣のSF小説であるWシリーズのテーマとも近く、ちょうど同時期に読み進めていたので、比較しながら楽しめた。ディストピア小説界も奥深いので、2019年も引き続きいろいろと読んでいきたい。
dokusyotyu.hatenablog.com
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他にも、國分 功一郎著『暇と退屈の倫理学』を1ヶ月かけて再々読したり、ブルーバックスで人類学や進化の本を読んだりしたことも思い出深い。人間とは何か、人生とは何か、ということを考える楽しみは、ディストピア小説を楽しみに似ている。ディストピア小説も人間と人間社会とは何かを問うているからだ。
『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』(キャスリーン・フリン著)、『アウシュヴィッツの図書係』(アントニオ・G・イトゥルベ著)、『辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦』(高野秀行、清水 克行著)なども面白かった。『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』は面白かったので、英語の勉強も兼ねて原著も買ってしまった。これから年末にかけて再読するつもり。『辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦』は本についての対談本で、ネタになっている本はどれも面白そうで、ぜひ読んでみたいのだけど、まだ、読めていない。ぜひ、来年こそ読んでみたい。
このように本のことを考えていると、さらに本が読みたくなる。明日は図書館へ行こう。さて、2019年はどのような本に出会えるだろうか。良い本に出会えますように。
ちなみに2019年の読書録的目標は「本代にいくらつぎ込んでいるのか把握する」である。残念ながら無尽蔵に金を持っているわけではないので、息の長い読書ライフを送るためにも、一度本代を把握しておかないといけないなという危機感からの目標である。世知辛い世の中だ、まったく。