読書録 地方生活の日々と読書

趣味が読書と言えるようになりたい。

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2020年読んで思い出に残っている本

 読書メーターによると、2018年は54冊、2019年は64冊、2020年は127冊の本を読んでいた。読書の楽しみは量ではないとはいえ、我ながらよく読んだなと思う。年100冊越えは学生の時以来だ。たくさん読めただけではなく、面白かった本にたくさん出会えた一年だった。
 先日、Twitterで#2020年の本ベスト約10冊というタグを見つけ、思いつくままに小説本をあげたが、2020年読んで印象に残っている本は小説以外にもある。年末なので、忘備録として2020年の趣味読書についてブログに書いておこうと思う。

『冗談』(ミラン・クンデラ著)

 好きな作家の一人であるミラン・クンデラの処女長編作『冗談』をようやく読んだ。これがすこぶる面白かった。著者らしい7章構造、主人公のプレイボーイぶりは本作から健在で、読書中はどこに連れていかれるのかまったく先が見えずにとても楽しい。一方でテーマは復讐と中年の危機という、よくあるものだった。よくあるテーマもミラン・クンデラの手によるとこんな物語になるのかという驚きがあった。
 訳者は『存在の耐えられない軽さ』の新訳も出している西永良成さん。『存在の耐えられない軽さ』は千野栄一さんの訳を持っているが、この本を読んで西永版も欲しくなってしまった。ちなみにこの年末年始は西永良成さん訳のレ・ミゼラブル』(ヴィクトール・ユゴー著)を読んで過ごします。

独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』(大木毅著)

 新書もたくさん読んだ一年だった。一番印象深いのが、第二次世界大戦のドイツとソ連の戦闘を取り上げた独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』。世界史の授業で触れていたはずだが、その本に描かれていたのはまったく知らない世界だった。知らないことを知るという知的好奇心を満たすだけではなく、世界の、人類の悲惨さを目の当たりにした衝撃が大きかった読書であった。
 この本でも参考文献として挙げられており、コミカライズでネットでも一時話題となっていた、独ソ戦に従軍した女性たちへのインタビューをまとめた一冊『戦争は女の顔をしていない』(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著)も購入したが、読むのが辛く、少しずつしか読み進むことが出来ずにいる。

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 それから新書といえば、ちくま新書ちくまプリマー新書電子書籍でセールをしていたので、15冊くらい買った。まだ積んでいる本が多くあるのだが、読んだ本では、『イネという不思議な植物』(稲垣栄洋著)という一冊が面白かった。イネという植物について植物学から歴史まで、広く浅く紹介した一冊。子どものころから植物にあまり興味がなく大人になってしまったので、イネが風媒花だという記述さえもが新鮮で、読んでいて楽しかった。
 他にも積んでいる新書は、電子書籍・物理書籍関わらずたくさんあるので、来年こそは読んでいきたい。『完全教祖マニュアル』(架神恭介・辰己一世著)など、以前から興味のあった本も積んでいるので楽しみだ。

『日本SFの臨界点』(伴名練編)

 自分のなかで、今年一番大きかった気づきは、短編小説は面白い、ということである。何を今更、と思われることだろう。
 恥ずかしながら私は今まで、長編小説>短編小説と思いこんでいた節があった。しかし勿論そうではない。世の中には沢山の優れた短編小説があり、思い返せば私も今までにたくさん読んできた。何より好きな作家の一人、北森鴻さんは短篇小説の名手である。
 短編小説は面白いということに改めて気がつき、意識したのがこの一年だった。
 きっかけとなったのがSFアンソロジー『日本SFの臨界点』。題名の通り、日本人作家による、短編SF小説の詰め合わせで、SF初心者の私には、どの作品も初めて触れる物語だった。そして収録された物語が、どれも面白かった。平日、仕事から帰り家事をした後に、一編ずつ読み進めていったのだが、その日々が想像以上に幸福だった。もっと読みたいと思った。短篇小説っていいな、と思った。

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 他にSF短編集といえば『息吹』(テッド・チャン著)も面白かった。特に近未来を舞台にバーチャルなペットに心酔する人々を描いた『ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル』が好きだ。
 それから、連作短編集だが『われはロボット』(アイザック・アシモフ著)も面白かった。SFの古典と名高い一冊なので、正直油断していたが、びっくりするくらい面白かった。女性老技術者へのインタヴュー形式とは思ってもいなかった。一気に引き込まれて読んでしまった。


アンナ・カレーニナ』(トルストイ著)

 短編は面白いが、長編小説を読む満足感というのも捨てがたい。今年はいわゆる文学作品としてはモンテ・クリスト伯』(アレクサンドル・デュマ著)アンナ・カレーニナ』(トルストイ著)を読んだ。訳者の方の仕事が素早らしく、どちらも読みやすかった。
 特に『アンナ・カレーニナ』は面白かった。ただの恋愛小説なのだが、それがよい。私はアンナとヴロンスキーの二人が好きだったので、悲恋への予感が満ちた物語をハラハラしながら読んだ。もう一組のカップルのうちの一人、リョービンの仕事観なども面白かった。
 光文社古典新訳文庫(望月哲男訳)でよんだのだが、文庫4冊をひと夏で読んだ。『戦争と平和』を読むのに数年かかったことに比べると、自分としてはなかなかのスピードで読破したものだと思う。厚い本を読み終えることが出来た、という単純な満足感も得られ、充実した読書経験であったと思う。

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『推し、燃ゆ』(宇佐見りん著)

 そして今年は数年ぶりに文芸誌を買った。河出書房新社『文藝 2020年秋季号』である。そもそも雑誌をあまり買わないのだが、ネットで話題になっているのを見て、ついつい買ってしまった。出版各社のTwitterアカウントをフォローし新刊情報を得ているのだが、河出書房の中の人たちは、情報発信が上手いと思う。ツイートを眺めていると、買いたくなってしまう。
 特集の「覚醒するシスターフッド」というテーマに興味を持って購入したのだが、印象深かったのは、特集外の中編小説『推し、燃ゆ』(宇佐見りん著)だった。特に主人公に共感できたわけではないのだが、印象が強く、感想ブログまで書いてしまった。

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 ところで文藝の次の号(2021年春季号)の特集は「夢のディストピア」らしい。知った瞬間、テンションがあがった。ディストピア小説は大好きだ。読みたい。絶対に買おう。予約すべきか迷っている。
 ディストピア小説といえば、今年は結局『われら』(ザミャーチン著)しか読んでいない。マーガレット・アトウッドの新作誓願侍女の物語の続編と聞いてとても楽しみにしていたのに結局読めていない。他にも、『農民ユートピア旅行記』(アレクサンドル・チャーヤノフ著)という小説をタイトルに惹かれて買ったが、こちらもまだ未読。今年は何かとよく名を聞いた『1984年』(ジョージ・オーウェル著)も久しぶりに読み返したい気がする。


 それにしても文芸誌をパラパラとめくっていると、世の中にはこんなにも物語が溢れているのかと気が遠くなる。
 とある読書エッセイに、歳をとるとフィクションを楽しめなくなるという主旨のことが書いてあり、少し恐怖を覚えている。私はいつまで物語世界に相手にされるだろうか。
 もちろん、面白いノンフィクションやエッセイも世の中には溢れているので心配することはないのだろう(ちなみに今年読んだノンフィクション系の本では『反穀物の人類史:国家誕生のディープヒストリー』(ジェームズ・C・スコット著)が、エッセイ系では『地の底の笑い話』(上野英信著)が面白かった)。それでも、いつか自分が物語世界に遊ぶことから卒業するのかも、と思うと少し寂しくなる。
 とは言っても、今の自分には、読みたい小説本がいっぱいある。本棚には未読の本が積んであるし、正月休みが明けたら図書館通いに勤しむ予定だ。

 2021年も色々な本に出会いたい。